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雑木林はまるで、不気味な生き物だった。
あんなに綺麗に澄み渡ってた空が、
にわかに不穏な色を示す。
小鳥は囀るというより、
無闇に羽ばたきを繰り返して
木から木へ、渡り飛ぶ。
土に生きる多様な、音も無き生物の息遣いが、
空気をじっとり湿らせている。
カオリちゃんは、何かの気配を察して、
まるで人が変わったように、先を急ぎ始めた。
見失うまいと
あたしは必死で後を追うが、
飛び出した木の根っこに躓いてしまう。
手は泥だらけになり、擦りむいた膝から血が
うっすら滲み出したが、振り向いたカオリちゃんは
駆け寄って、ハアハアと焦るあたしを起こすと、
耳元でこう言った。
「ほら!聞こえない?ヤツが近づいて来てる‥‥。
アイツはとんでもない悪なのよ!
私達みたいな女の子を捕まえては、
穢して殺すことを悦びとしてる‥。
もっとも、さすがに生身は滅びてしまったけれどね?
幽体となっても、今だこの林を彷徨っているのよ‥」
ザワッザワッと、林を掻き分けて向かって来る音が
次第に高まってくる。
「後ろは見ないでっ!もうすぐ出られるからっ。」
小径が無ければ、方角すら見失ってしまうだろう。
「アタシも獲物にされて、この場所で死んで
しまったんだ。アイツは善人のふりをして、
子供たちをこの雑木林に誘い込むの、だって
担任だった先生を
どうやって疑えっていうの?」
彼女曰く、「すでに死んでいる」という
カオリちゃんは、
あたしと違って息も上がらない。
「カオリちゃん、あたし疲れた‥‥。」
まもなく、もうこれ以上進めないほど
息が切れたあたしの眼前に、どこか見覚えのある
建物が現れた。
赤茶色のレンガの壁と、木の壁の間に、小径は
より狭まって続いている。
「フフッ、もう大丈夫!」
その笑顔に励まされてただ迷うことなく、
この小径を抜ければ良い。
その壁と壁に挟まれた細く暗い小径の
ほんの少し先に、
一点の明るい光が見える。
おまけに、この辺りまで仄かに漂ってくる
懐かしい食べ物の匂いに、導かれてしまえ。
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