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ロフは、暫くすると二頭立ての馬車を手に入れてきた。城の馬車と引き換えで、何も知らない商人は喜んだ。
「殿下が今までお使いになったものとは比べ物になりませんが、お許しください。御召し物も、平民のものにお着替えいただきます」
侍従たちと大差ない服に着替えさせられる。長袖の丈の短い上着に脚衣。長い革靴を身につけると、ロフは眉を顰めた。
「⋯⋯そんなにおかしいだろうか。これは動きやすいが」
「馬子にも衣装などと申しますが、やはりお生まれに合った衣装があるのだと感じます」
荒い織りの外套を着せられ、決して脱ぐなと言い含められた。頭巾までしっかりと被る。
「これから、どこへ?」
ロフは私の目を見て言った。
──故郷へ、と。
「守り木の村に?」
二人は頷いた。村長は若者たちを生かす為に村から出したはずだった。そこに再び戻ると言うのか。
「もう、村に誰もいないのはわかっています。それでも近隣には、わずかに生き残った同胞がいる。私たちはもう一度生まれ故郷の土を踏みたいのです」
輝く羽をもつ美しい鳥たちが次々に舞い降りた湖。
林の中の小屋で体を暖めてくれた優しい犬たちと、飼い主の姿が目に浮かぶ。ロフの茶色の瞳は、犬たちの主人と同じ色をしていた。
「私は以前、雪の中で命を落としかけたところを其方たちの同胞に救われた。何という巡り合わせだろう。私のせいで滅んだ村の者に、一度ならず二度までも助けられるとは。其方たちはどうして私を逃がした?」
守り木の村の若者たちは、顔を見合わせた。ロフがゆっくりと口を開く。
「⋯⋯私たちは『裁き』を友として、共に生きる者です。蜂たちは選ぶのです」
「選ぶ?」
「アルベルト殿下。とてもお信じになれないかもしれませんが、古くから村にある言い伝えです。『裁き』は意思を持つ。彼らの意思を私たちは尊重します」
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