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「⋯⋯蜂が? 意思を?」
どんなに希少でも、虫は虫だ。それがまるで人のように意思を持つと言うのか?
──一体、どんな意思を?
蜜の効能を知ってはいても、あまりに突飛な話だった。うろたえる私を見て侍従はきっぱりと言った。
「⋯⋯殿下、私たちは貴方に生きていただかねばなりません」
「生きて⋯⋯」
「そうです。あのままでは、トベルク様は殿下を亡くなるまで塔の中に閉じ込めたでしょう。殿下の生きる場所は、塔の中でもフロイデンでもない」
「私の生きる場所⋯⋯?」
「殿下ご自身がお選びになった場所です」
まるで全てを知っているかのように、ロフは私を見つめた。
脳裏に、雪の中にそびえたつ姿が浮かぶ。口の中から自然に言葉が転がり落ちた。
「⋯⋯レーフェルト」
最果ての地に輝く宮殿。雪と氷に囲まれた美しい鳥籠。晴れ渡った空と広大な大地の風景が流れ込んでくる。
「私たちがお連れします。共に参りましょう」
その晩、夢を見た。
ヴァンテルが私の名を呼んでいる。
声を限りに、何度も何度も私の名を呼んでいる。
──殿下、アルベルト殿下。
ご無事ですか。
どこにいらっしゃるのですか。
捜して、捜して、歩き回って。
昼も夜もなく私の名を呼び続けている。
──例え、地の底までも参ります。
ヴァンテルの血を吐くような叫びが聞こえるのに、私の声は届かない。
だって、ヴァンテルは私に背を向けているから。
──クリス⋯⋯クリス。
ここにいるのに。
こちらを見て。
お願いだから、私に気づいて。
必死で叫んでいるのに、少しも声は出なかった。
いつの間にか手にも足にも、長い長い鎖の枷がついている。
この瞳からいくら涙が零れても、愛しい人には届かない。
例え、本能でもかまわない。
もう一度伝えることができたなら。
──お前だけが、好きだと。
目が覚めた時には、一人きり。
白い光が差し込む部屋で私は声もなく泣いた。
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