19.意思 

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「⋯⋯蜂が? 意思を?」  どんなに希少でも、虫は虫だ。それがまるで人のように意思を持つと言うのか?   ──一体、どんな意思を?  蜜の効能を知ってはいても、あまりに突飛な話だった。うろたえる私を見て侍従はきっぱりと言った。 「⋯⋯殿下、私たちは貴方に生きていただかねばなりません」 「生きて⋯⋯」 「そうです。あのままでは、トベルク様は殿下を亡くなるまで塔の中に閉じ込めたでしょう。殿下の生きる場所は、塔の中でもフロイデンでもない」 「私の生きる場所⋯⋯?」 「殿下ご自身がお選びになった場所です」  まるで全てを知っているかのように、ロフは私を見つめた。  脳裏に、雪の中にそびえたつ姿が浮かぶ。口の中から自然に言葉が転がり落ちた。 「⋯⋯レーフェルト」  最果ての地に輝く宮殿。雪と氷に囲まれた美しい鳥籠。晴れ渡った空と広大な大地の風景が流れ込んでくる。 「私たちがお連れします。共に参りましょう」  その晩、夢を見た。  ヴァンテルが私の名を呼んでいる。  声を限りに、何度も何度も私の名を呼んでいる。  ──殿下、アルベルト殿下。   ご無事ですか。   どこにいらっしゃるのですか。  捜して、捜して、歩き回って。  昼も夜もなく私の名を呼び続けている。  ──例え、地の底までも参ります。  ヴァンテルの血を吐くような叫びが聞こえるのに、私の声は届かない。  だって、ヴァンテルは私に背を向けているから。  ──クリス⋯⋯クリス。   ここにいるのに。   こちらを見て。   お願いだから、私に気づいて。  必死で叫んでいるのに、少しも声は出なかった。  いつの間にか手にも足にも、長い長い鎖の枷がついている。  この瞳からいくら涙が零れても、愛しい人には届かない。  例え、本能でもかまわない。  もう一度伝えることができたなら。  ──お前だけが、好きだと。    目が覚めた時には、一人きり。  白い光が差し込む部屋で私は声もなく泣いた。
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