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食べ物や水を積み込んで私たちは出発した。
窓から少しだけ顔を出せば、天気に恵まれ空は青かった。
私が閉じ込められていた城はトベルクが南に持つ所領にあり、王都からは少し離れている。
自分の来し方を見た。
このはるか先にフロイデンがある。美しき花の都。二度と戻ることはないと思った場所で父母に会い、懐かしい小宮殿を訪れることが出来た。
叔父上やレビン、ライエンに会うことはもうないのかもしれない。
胸の奥がちり、と痛む。
瞼の裏に柔らかな笑顔が浮かんだ。
⋯⋯クリスにだけは。
北方地域はヴァンテルの所領だ。レーフェルトにたどり着ければきっと、再び会える。募る心に一筋の希望を抱いて生きようと決めた。
私が知らないところで、運命の輪は勝手に回っていく。
二人の男が死に物狂いになっているなどとは、まるで思いもせずに。
北方地域に近づくにつれ、次第に寒さが増していく。それでも私の体調は崩れなかった。
叔父と旅した時には上等の毛皮を何枚もあてがわれていたが、今はわずかに上着に使われているだけだ。それでも平気なのは、毎日少しずつ与えられる蜜のおかげだろう。
手先に血が通い、いつでも全身が温かい。纏わりつく怠さは消え、身も心もすっきりした状態が続いている。
宿があれば宿に泊まり、後は野宿だった。私は馬車の中で眠り、ロフとブレンは交替で見張りをしながら火を焚き、外で眠った。凍えてしまうと言っても、大丈夫だと二人は取り合わない。
騎士や兵士の姿を見かけた時は、わざと街道沿いの森に潜んでいたこともある。ロフたちは森の暮らしに慣れていた。
三週間が過ぎた。
周囲の風景がすっかり変わり、雪と氷が一面に続く。私たちの服装も厚手の外套を纏って、目以外は全て覆っている。なんとか手に入れた薄い毛皮を大事に着込んで寒さを凌いでいた。
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