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1.糾弾
「なぜ、お前がここにいる」
その言葉をすぐに口にすることは出来なかった。
体が冷え切って、歯の根が合わない。
王宮の誰よりも清廉で美しいと言われた男は、父王の従兄弟で宮中伯の一人だ。
まだ年端も行かぬ幼子の頃に出会い、いつも優しく微笑んでくれた。
交わす言葉は少なくても、互いの心には信頼と言う名の心が通っている。
ずっとずっと、そう信じてきたのに。
『どんな哀しみの時も、あなたの側にいる』
兄を亡くして絶望の淵にいた時の言葉が蘇る。あれは全てまやかしだったのか。
快い言葉を平気で舌に乗せながら、他ならぬお前自身が。
⋯⋯私から全てを奪って、この最果ての地へと追いやった。
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