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「本当に付いてきたいと思ってくれる者だけでいい。もう二度と、王都に戻ることは叶わないのだから」
長年仕えてくれた者たちに告げれば、それぞれが頭を垂れ、次々に泣き崩れた。
「遠慮することはない。父母や妻子がいる者は王都に残れ。己が年老いた者もだ」
幼い時から側にいた乳母も家令も、彼の地の寒さに耐えられるとは思えなかった。
「口惜しゅうございます。尊い御身がなぜ、このようなことに⋯⋯」
すすり泣く乳母の口から、怨嗟の声が漏れる。
なぜ?
そうだ、一体何がいけなかったのだろう。
ロサーナ王国の第二王子として生を受けた。
兄である王太子は穏やかで賢く、公平な視点を持っていた。歯車が狂ったのは、その兄が落馬して命を喪った時からだろうか。
瞬く間に周囲が変わり、東の宮殿に住まいが移された。王宮の片隅で静かな生活を送っていたのに、世継ぎの君よと細い首に重い冠が被せられる。
生活は一変し、たくさんの教師がつけられた。朝から晩まで帝王教育が施され、貴族の中からは将来の王妃に相応しい姫君が伴侶にと選ばれる。
私の意思などどこにもなく、聞いてくれる者もいない。
だが、それでもよかった。
求められるならと、必死で努力した。
忙しければ忙しいほど、兄を喪った悲しみを考えずにすむ。僅かな睡眠すら長椅子で仮眠をとりながら、日々の学びに明け暮れた。
勉強の合間には、婚約者への文や贈り物も欠かさなかった。家臣たちの勧めではあったが、政略の相手であっても誠意を尽くしたい。いつか心を通わせることが出来たらいいと、淡い望みを抱いていた。
彼女の口からも証言がなされたと聞く。
私の何が彼女を偽証に走らせたのか。いつの間に嫌われていたのだろうか。
問うことも答えを聞くことも出来ず、王宮を旅立つ日がやってきた。
病に伏した父王との面会さえ、最後まで叶わなかった。
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