第2話 村の火

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 走って走って。そのうち鳥目のレーキには今、自分が何処にいるのか見当もつかなくなる。 「はぁ……はぁ……はぁ……」  冬も近くなった夜の森は冷たく、月明かりに揺れる木々の枝でさえ恐怖を誘う。  空腹と疲労で走り続けることの出来なくなったレーキはそれでも手探りで森を進む。  村から離れるにつれて右目が痛みだした。そっと頬に触れてみると(ただ)れた皮膚に触れて鋭い痛みが湧き上がる。  闇雲に(やぶ)を掻き分けたせいか、むき出しの手や顔にいくつも擦り傷が出来ていた。それもひりひりと痛みだす。  それでも立ち止まることが恐ろしかった。立ち止まれば、追いつかれれば村人たちにどんな目に合わされるかわからない。 「……俺が……何したって……言うんだ……っ」  ただ薪を取りに行っただけなのに。ただ養母の言いつけを守っただけなのに。 「……」  ああ。あいつら、きっと死んだんだな……轟々(ごうごう)と音を立てて燃え盛る家。十一年間暮らしてきた家。  決して楽しいとは言えなかった場所。優しいとは口が裂けても言えなかった養父母。苦しくて逃げ出したくて一刻も早くその時が来ることを願っていたのに。こんな形で願いが叶うなんて。 「……俺のせい、なの、かな……?」  村人たちの言うように俺が不吉な黒羽根だから。俺が災いを呼び込んだから。俺が、やられちまえなんてちらりとでも思ってしまったから。  今も耳の奥に大工の断末魔(だんまつま)がこびりついて離れない。あれはなんだったんだ。あの炎は。まるで俺から生まれたみたいだった。  俺が殺したのか。あの大工を。  親しくはなかった。他の村人と同じようにレーキを()()として扱っていた連中の一人だった。それでも心は痛んで重い感情が湧いてくる。 「……ッ痛ッ」  何かに(つまづ)いた。派手に転んでレーキは地面にうずくまった。疲労と空腹、それに(ひど)い罪悪感。起ち上がる気力もない。ああ。酷く右目が痛む。  ……もう、いいや。  枯れ葉の積もった秋の森は柔らかく、静かで。ふっと何もかもがどうでも良くなって、レーキはそのまま目を閉じた。
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