La storia degli altri

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 『カランカラン』   街の郊外で喫茶店を始めた男だが客が来る頻度は少ない。よって儲けというものは無いに等しかったが、それでも男は何かを待っているかのように店を続けた。   毎朝街まで買い出しに行き、朝の9時頃から夜の7時頃まで営業を続ける。男が出す料理は色々な場所へ旅をしていた旅人達の舌が唸る程美味かった。だが街から客がやってくる量は変わらなかった。   男が店を閉め、後片付けをしていた所へ1人の男性と2人の女性がやってきた。   「すみません、もう閉店で――」   男はキッチンから振り向いて今日は帰ってもらえるように言おうとしたが、3人の顔を見たら言葉が詰まってしまった。   (あの時の――)  「ごめんなさい。僕達の顔に、見覚えはありませんか?」   男は皿を持ったまま動かなかった。いや、動けなかった。男は緑の欠片が見せた映像の仲間達が実際に存在していたとは思わなかったからだ。   動かない男を見て男性が声をかけてきた。だがそれは店のことでは無く、男に対する質問だった。男は我に返ったように皿を元に戻して男性の質問に答えた。   「あっ、いや、えっと、見たことはあると思うのですが、皆さんのお名前は分からないです」   すみません、と謝る。3人は互いに顔を見合わせて失望の色を浮かべた。男が見ているのに気が付くと、すぐに愛想笑いをしたが男はしっかりと見ていたので申し訳ない気持ちになった。男は昔から顔の表情筋が鈍かったのか、負の感情が湧いた時はそれを表に出さないようにすることが出来ていた。  「そ、そうですよね、急にそんなこと言っても仕方がありませんよね……」   「――何か飲みますか? 他にも軽食がございます」   男はここで3人を店から出したらいけないと思った。理由は分からない。ただ、ずっと前から3人に何かをしていたような錯覚さえ覚えているからきっとその名残なのだろう。  「じゃあ、僕はコーヒーを。2人には何か甘い紅茶をお願いしても良いかな?」   「かしこまりました。お好きな席に座ってお待ち下さい」   3人は少し悩んだ後、男性を真ん中でカウンター席に座った。男は気にせず3人の飲み物を作り始めた。   「おまたせしました。コーヒーとアップルティー、それとアールグレイティーです」  「あれ?」  「あら? 私のはアールグレイティーなの?」   男は特に意識せず2人の紅茶を別々に作っていた。男性より筋肉が凄い女性は男に聞いた。   「お嫌いでしたか?」  「いえ、アールグレイティーは好きだわ。アールグレイティーを作ってくれてありがとう」   「良かったです。こちらの林檎のはちみつ漬けとパンケーキもどうぞ」  「ありがとう。ふふ、私の好きなものばかりね」   筋肉が凄い女性はお礼を言って食べ始めた。目を輝かせて美味しそうに食べている。男性とやけに青を強調した女性がよだれを垂らしそうな勢いで林檎のはちみつ漬けとパンケーキを凝視している。   「安心してください。2人の分もきちんとありますから。店を閉めているので、果物は統一していないですがよろしいですね? こちらが苺のはちみつ漬けで、こちらの方が桃のはちみつ漬けになります」   3人が驚いて男を見る。果物が3人共違うということになのか、それとも自身の好物の果物があるということになのか。どちらにせよ男は知らないから分からない。  「あ、ありがとう。このコーヒーも、僕の好みの味になってる……。本当に、君の洞察力は凄まじいな」  「ウチがアップルティーと桃が好きなの何で分かったの!?」   「えっと……在庫が余っていたのでそれを使っただけですよ? 3人の好みなんて初めて聞きました。あっ、パンケーキ用のシロップもあるので使ってください。甘さは控えめです」
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