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Ti do l'ultimo pezzo
――あれからいくつの戦争が起きて、いくつもの時が流れたのだろう。彼らと初めて会ったあの日、私は胸が高鳴った。ヒスイの欠片が見せてくれた記憶が、嘘ではないと証明されたからだ。あの時は欠片だった緑のヒスイも、今は立派な魔石として形を作っている――小さな欠片が入る穴を残して――。
彼らはおよそ10年に1度の頻度で私の店に欠片を届けに来てくれた。それを数回続けていると嫌でも気づく。私の体に変化が何も起きないということに。彼らが次第に老人へと変化していくのがとても恐ろしかった。逃げたいとも思った。だが、彼らは最期まで私のためにヒスイの欠片を探し回ってくれた。
ヒスイが見せた記憶は全て私の知らないものばかりだった。
『誰か』に笑いかける旅人。
『誰か』の手を握る青い帽子の女性。
『誰か』と話をする筋肉の女性。
その全てが、ヒスイを通じて私の中にするりと入り込んでくる。夢心地だった。
彼らが来なくなった後は何十年ずっと1人だった。お客様は気が付くと誰も来なくなっていたが、その何十年の後には彼と同じ名前の少年が来るようになった。少年が老人になり、最後に来た時には必ずヒスイの欠片をくれた。自分の身を犠牲にするまで、私のためにヒスイの欠片を探し出す。私はそれが辛かった。今は彼も来ない。もう終わってしまったのだろうか
出窓に飾られた3つの魔石は、彼が植えてくれたヘリクリサムのつぼみから落ちてきた。
1番左に置いてあるのは、真昼の海のように青い魔石。
1番右に置いてあるのは、貝殻のように7色に輝く魔石。
その真ん中に置いてあるのは、若葉のように明るい魔石。
その隣にもう1つの魔石を置くことが出来るように隙間を開けておいてある。何故4つ目の魔石を置けるようにしたのか私でも分からない。きっと、『誰か』のためなのだろう。
私は何も書かれていないオレンジ色の本の上に置いたヒスイを手に取る。光にかざすとキラキラと輝きを増す。この輝きが『誰か』の記憶だと、誰が信じる?
このヒスイという魔石がある限り、私はこの店から離れることも、彼らの後を追うことも出来ない。
今日もまた、1人――
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