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『カランカラン』
「?」
懐かしい来客の音に疑問を持つ。扉を開く音が聞こえなかったからだ。扉を開く音が聞こえない時は必ず彼だった。だがその彼も、もうここには来ないはずだ。ともかく、お客様なら出なければならない。
「いらっしゃいませ――」
――次の言葉が出ない。次の行動すら、出来ない。目が熱くなってしまう。
「ごめんなさい。僕達の顔に、見覚えはありませんか?」
笑いながらそう聞いてくる旅人は、初めて会った時と変わらない顔立ちをしていた。その隣にいる青い帽子の女性も、筋肉の女性も変わらなかった。
「うふふ、やっとこの店に来ることが出来たわね」
「またアンタのアップルティーが飲める!」
男は、その場に崩れ落ちそうになるのを机に手をついて必死に支えた。3人はその様子を見て手を貸そうとするが、男はそれを制止する。
「……大丈夫です。それよりも、変わっていませんね」
3人は笑っていた。その笑顔すら、懐かしい姿だった。旅人が答える。
「僕達、元の姿で生まれ変わることが出来たんだ。前世の記憶もちゃんとあるよ。君に会うことが出来て、本当に良かった」
「――信じられない」
「信じてほしい。これは夢なんかじゃないよ。現実だ。僕達は、君が背負ってしまった使命を終わらせに来たんだ」
終わりなき使命を終わらせる。それが何を意味するのか、私はすぐに理解することが出来なかった。私は支えきれずに崩れ落ちてしまった。
「これを、君に」
そして旅人は男に何かを差し出す。
「最後の……欠片……」
旅人はヒスイに必要な最後の欠片を私にくれた。何十年、何百年以上も前のことを忘れずに、私のために……。
「これで、君の使命は終わる。君はもう、この店の店長じゃない。僕達の仲間の、『ライト』だよ」
壊れないように、慎重に男はヒスイの欠片を受け取る。そっと、小さな穴にはめ込んだ。
私は目を見開く。最後の欠片が見せる記憶は、『誰か』の最期だった。
「あぁ、私は……。俺は、ずっと――
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