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Incontra l'inizio
夜の街。月のあかりは分厚い壁によって阻まれている。
(まるで今の自分のようだ)
土砂降りの中、そう思った男がいた。
男は気づくと、この土砂降りの中にいた。どこに住んでいたのか。今までどう過ごしていたのかすら覚えていない。唯一覚えているのは名前だけだった。
「――スファレライト」
自身の名を呟く。今の今まで名乗っていたはずの名前は、今の男には慣れない名前である。
「今日の宿はどうすれば良いだろうか」
ずぶ濡れとなったコートのポケットを探ると、小さい紙とあまり多くはないが硬貨が入っていた。
(これなら小さいエールを飲んでも一泊はできるだろう)
ふと、疑問に思った。なぜエールが飲めると思ったのだろうか。記憶を失くす前の自分は飲んだくれだったのだろうかと不安に思う。
「とりあえず、どこかに行こう。風邪を引いてしまう」
男は夜なのにまだ騒がしい居酒屋へと足を踏み入れた――
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