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「――出来てしまった」
(あれ? 煉瓦の家って普通、半年くらい時間がかかると思っていたのだけれど……?)
男の目の前には『ライトの魔法喫茶』と書かれた煉瓦の家が建っていた。男はあの後街の郊外に土地を買い、職人に声をかけて煉瓦の家を建築してもらった。資金は小さな紙に書いてあった管理番号とやらを銀行に見せたら調達することが出来た。記憶喪失になる前は、男は自分は金持ちだったのかと引いてしまった。
改めて店となる煉瓦の家を眺める。周りを一周して見てみると、壁は赤い煉瓦で屋根は明るいオレンジ色だった。家の扉は全て赤い煉瓦に合うように暗めの木で出来ている。他にも広めに作られている庭の周りは木の柵で囲われていたり、裏の壁には成長途中の蔦が張り付いていたりしている。いつかはこの蔦に壁を全て覆われてしまうだろう。
「中はどうなっているのだろうか?」
『カランカラン』
「おお!」
中はゆったりできる程広く、扉と同じ木が床に使われている。奥には昔ながらのキッチンがありその手前にはカウンターがあった。カウンターには3つのカウンター専用の椅子が置いてある。テーブル席は全部で5つあって1つは2人席で他は全て4人席だった。そして窓はなにか置くことが出来るように出窓になっていた。
男は顔の筋肉が緩むのを止められなかった。『誰か』が考えていた店を男が代わりに叶えることが出来たからだ。
「この出窓には何を飾ろう? 職人達にも感謝をしないとな。まさに思い描いていた通りの店が出来たのだから」
男は嬉々として店の中を歩き回り、どこに何を置こうかと考えていた。男の周りからは可愛らしい花が飛んでいるように見えた。
男が店の中に入った時、街から3人の若者がその様子を見ていた。青年達の顔は未練があるような、悲しい顔だった――
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