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プロローグ
「いつまでここに、こうしていればいいんですか」
男が言った。遠慮がちな口調ではあったが、焦れているのがよくわかる。
深い木の色を基調にした落ち着いた雰囲気の部屋は、どっしりとしたアンティーク調の重厚な家具を置き、古き良き洋館の一室を演出している。
室内にいるのは、男と彼の二人きり。互いに口を閉ざせばたちまち静寂が支配する空間で、ただソファに向かい合って座っている。
男の体感では既に一時間は経過しただろうか。何が始まるでもない状況に、居心地の悪さを覚えたとしても無理はなかった。
とかくヒトは、時というものに縛られやすい生き物だから。
「焦らずにお待ちください」
「しかし――」
男が反論を試みようとした時、コツコツとドアが小さく叩かれる音がした。同時にドアの向こうからは、優雅さにはやや欠ける羽音が聞こえてくる。
ソファから腰を上げてドアを開けると、カラスほどの大きさの白い鳥がバサバサと音を立てて室内に入ってきた。
「二人目ガキタゾ。白ノ部屋」
彼の頭の周りを飛びながら、白い鳥は無機質な声で告げる。見た目はなかなか美しい鳥なのに、飛び方にいまいち品がないのが玉にキズだ。
「わかりました」
応えて彼はドアのほうへ足を向ける。つられたようにソファから腰を浮かせかけた男を、彼はやんわりと手で制した。
「次の方が到着されたようですので、行ってまいります。あなたはもうしばらくここでお待ちください」
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