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「くそっ。やっぱりか」
珍しく感情をあらわに白川は舌打ちする。
「やっぱりって、和志はこれを予想していたのか? だから遺体を確認しに?」
「まさかとは思った。僕の馬鹿な妄想であることを願ったんだが……」
「どうしてわかったんだ? 鈴代さんの遺体がなくなってるかもしれないなんて」
「こうなった以上、説明している暇はない。朱村を捜すぞ」
「え、朱村さん? どうして?」
答えず、白川は部屋を飛び出した。
彼は食堂へ入って行った。暗い食堂には当然誰の姿もなく、しんと静まり返っていたが、厨房のほうはまだ明かりがついているらしい。うっすらと光が漏れていた。
「こんな時間まで、朱村さんはまだ厨房で何かしてるのか……?」
白川の様子に緊張を強いられるのか、明日真も自然と声をひそめる。白川は何も応えず、硬い表情のまま厨房に向けて歩を進めた。
「……何か、生あたたかい空気が漂ってくるな」
生身ではない俺には感じられない。明日真の言葉に、白川はいよいよ表情を険しくした。
煌々と明かりのついた厨房にはしかし、誰もいなかった。
明日真が言った生あたたかい空気の正体はコンロに置かれた大きな鍋で、沸いた湯がもうもうと白い湯気を立てている。コンロの火は消えていた。
「朱村さん、いないな」
明日真は厨房を見回す。
「様子からして、ついさっきまでいたようだけど」
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