Act.3-3 FLASHBACK -5 years ago-

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 当本人の川上はそんなことを言ってくるが、交渉術と凄みを身につけられたのは彼のおかげだと思っている。この頃からSLPの知名度がグッと上がり、所属タレントが売れ始めた。事務所として安定軌道に乗ったと言えるだろう。  スタッフの頭数も揃ったしそろそろ組織強化も、と会議で告げられたのは、その頃のこと。  俳優/モデル/アーティスト/クリエイター、正式にこの4つの部門に分かれる。  役員間で自然と棲み分けをして責任者の役割を担っていたが、俺は当然のように、アーティスト部門の(ヘッド)になった。SLPだけでなく、QBPのアーティスト部門も兼任だ。  俺は特に異論もなく了承したし、親会社から移籍してくるタレントの面倒を見てほしいとプロフィールを見せられた。  神谷彗(かみやけい)–––通称・ケイという名前の歌手。  彼はSLPの親会社に所属しているが、俳優兼業歌手がいる程度で音楽部門には力を入れてはいない。歌手志望者にとっては、ノウハウもない上に古い事務所でしがらみも多いとなると、アーティストがいる事務所に移籍したい、と思うのは自然な流れだ。  そしてどういうわけか、そういう話に首を突っ込むことが大好きなウチの社長–––よく言えば面倒見のいい川上が、だったらSLP(ウチ)に来たらええよ!と助け舟を出したのである。息のかかった新興事務所なら親会社も了承しやすいし、アーティスト側からしても、新設部門で推してもらえる・自由にやりやすいとなれば話は早い。 「じゃ、彼、アーティスト部門所属になるから、手塚ちゃんあとはよろしくね!」  そして少し遅れてQBPでも、インディーズレーベル上がりの実力派ソロシンガーがデビューした。彼女の名前は、滝川ユア。  ケイとこの歌姫が、両事務所のアーティストとして誕生した瞬間だった。  彼らはこの先、アーティスト部門のトップとして事務所を牽引していくことになる。
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