第十一章 和解

6/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/83ページ
 馬に水を与えようと桶を手にしていたユリウスが半身になって振り向いている。彼は、面食らったような顔をしている。しかし、私の視線は揺らめいている。 「どうかしたの?」  まっすぐに尋ねる勇気が出てこない。ああ、どうしよう。  スカーレットとのこと……。ううっ。駄目だ。聞けやしない。  彼の視線を感じた瞬間、別のところから、何か声の様なものが響いたような気がしたのだ。  アイリス、素直心を開きなさい。えっ、今のはなんだろう。慈悲深く暖かな息吹のようなもの頬に感じた。 『アイリス、あなたの心の声に従いなさい』  これは空耳だろうか。 『素直になるのよ、アイリス……』  私の耳元で優しい誰かが呼んでいるような気がする。ああ、もしかして精霊が囁いているのかしら? 気配を感じるわ。優しい女性の声が、私を励ましている。  私は、こんなにもユリウスの事か好きなのだ。ここで、初めて、ユリウスの立ち姿を見た時から心を鷲掴みにされていたような気がしている。今でも、ハッキリと覚えている。あの日、振り返ると、あなたがいて……。そして、私の心に不思議な風が吹いたのよ。  景色も、その場の空気も、一気に変わったような気がしたわ。  その時から、ずっと気になっていたんだと思う。だけど、なかなか素直になれなくて……。あなたに反発したこともったけれど……。でも、もう、自分の気持ちを誤魔化したりしない。 [す、好きななの]  怖い。でも、言わなければならない。高ぶる気持ちを打ち明けたい。一歩、踏み出していく。両脚を踏ん張りながら叫んだ。 「あなたが好きなの! スカーレットが仲良くしている場面を見ると胸が引き裂かれそうになるの!」  ユリウスは瞬きもせずに聞いている。そして、クスッと笑った。そっと私の頬に手を添えながら言った。 「オレは君のことが好きだよ。スカーレットに対しては恋心は抱いていないよ」 「でも、それなら、どうして……」  あなたは、スカーレットと親密なの? 言葉にしたくても出来ないまま目で問いかける。 「ごめん。これには訳があるんだよ。スカーレットの母親を騙す為に意図的に仲がいいフリをしていたのさ」  言いながら私の強張った頬に手を添えたのだ。彼は、愛しげに目を細めながら囁いている。あまりにも、私か哀しそうな顔をしているので心が軋んだようである。 「よく聞いて欲しい。スカーレットが追いかけている相手はオレじゃない。別の男だ。君もよく知っている相手だよ」  ポカンと見上げる私のすべて心を包み込むように囁いている。 「昨日は、スカーレットに泣きつかれて困ったよ。彼女は完全に誤解していた。マーカスが君に気があると思い込んでいたからね」  はぁ? マーカス? あの、ガサツなマーカスのことを好きなの?
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!