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そう言うと、彼が、後方に繋いでいる自分の馬を指差した。
「あの、オレの馬にも水を与えても構わないかな?」
「はい。桶を用意しますね」
私がバケツを探しに歩き出そうとすると彼の表情が変化した。彼の眉間が強張り、瞳が警戒の色を帯びていた。低木の枝にいるグロテスクな爬虫類を警戒するような口調で叫んでいる。
「そこ! 枝に大きなトカゲがいるよ!」
「平気ですよ。危なくないですよ」
言いながら、低木に咲いている熱帯特有の大きな花を摘み、モスグリーンのトカゲの前に花を出すと、誘われるかのように枝を伝って近寄ってきた。トカゲは器用に蜜を長い舌を使って舐め始めている。
見た目はグロテスクなのに、飼いならされたインコのように私の腕に乗る様子を目の当たりにした彼はポカンとしている。
私は得意げに説明していく。
「この子は蚊や蜘蛛を食べてくれます。ペットとして枕元に置く島民もいます。以前、島に来たお客さんがトカゲを叩き殺してしまったんです。そんなこと、許されないことなのに」
「なぜ、殺しては駄目なの? 絶滅危惧種なの?」
「先住民は、蛙や鳥などの生き物が、人間の魂や死者からの言葉や精霊の神託を運ぶと信じています。だから、小動物を不用意に殺してはいけないの。死者からの大切なメッージが消えてしまいます」
セントマリー島に白人が入植したのがニ百十二年前。先住民の大半が天然痘によって死んだ。その後、労働力を補う為に黒人奴隷がサトウキビ畑へと送られてきた。人口の構成は大きく変わったが、それでも先住民は生き残っている。
先住民は精霊の存在を信じている。
「精霊は血を好みます。だから、シャーマンは動物の血を病人の身体にベッタリと塗ってから祈るんです。シャーマンは特別な力があるの。だから、精霊と魂の交流をすることが出来るんです」
一気にそう語ると、彼は感心したように頷いた。
「なるほど。そうなんだ。独特の宗教観なんだね」
「あ、あの、あたしがシャーマンの話をした事を誰にも話さないで下さいね……」
私が急に怯えたように視線を揺らすと、おやっというふうに眉根を寄せた。優しく問い返している。
「どうして?」
「叔母は、あたしが先住民の文化に共感し過ぎていると思っています。あたしが白人社会から浮いてしまうことを恐れています。でも、叔母も頭痛が治らない時はシャーマンの御払いを受けていました。シャーマンは島に自生する薬草に詳しいんです」
シャーマンは部族の祭司。そして、優秀な薬師の役割も果たしている。
「頭痛やマラリアに効く薬も特別な場所に生えています。厄払いをした後、薬草を手渡してくれるんです。気鬱などは悪霊払いで治してくれます」
「へーえ、すごいね」
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