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第九章 ユリウスの本音
「アイリス! 君は何を考えているんだよ!」
いつもは優美な彼の衣服はもちろん、顔や髪に葉っぱと泥が付いている。ひどく、思い詰めたような顔で踏み込んでいる。
「沼地の淵に女性のハンカチが落ちていたんだ。君が溺れたのかと思って、探し回ったんだぞ」
「……えっ」
「みんで沼地の中に棒を突き刺した。そしたら、動物の遺体がみつかった。どれだけヒヤヒヤしたと思っているんだ! なんで、こんなところにいるんだ」
ユリウスも捜索を手伝ったのだろう。ズボンやシャツの前身ごろに泥が頑固にこびりついていた。彼は、掠れた声で叫んだ。
「君は、ずっと行方不明でみんなが心配したんだぞ。ヒューは君のせいで殴られて気絶したんだ!」
「どうして! ヒューが殴られたの!」
いきなり、そう言われても訳が分からない。いつのまにか、私の知らないところで大騒ぎになっているようである。私は混乱したまユリウスの話を聞いていた。
「執事は、君とヒューが一緒にいると考えた。そして、ヒューに事情を聞こうとしては自宅に向かったところ。彼はいなかった。夜だというのに、彼は、灯台付近の浜辺の猟師小屋にいたんだ」
その小屋にはヒューが誰かと過ごした形跡があったという。女性の長い髪が落ちていた。栗毛だったが、暗い場所では黒く見えたらしい。
「アイリスはここにいないって、ヒューが答えたんだよ。でも、最後に、君とヒューが話すところを執事が見ている。それで、ヒューは君を誘拐した疑いをかけられたんだ」
「そ、そんな馬鹿な! ヒューの潔白を証明するわよ! あたしは一人でここにいたわ」
「なぜ、こんなところにいるんだい」
「そ、それは……」
「君は、オレと顔を合わせたくなかっただけだよね? でも、こんなふうに飛び出すなんて馬鹿だね、君は……」
彼の声音が荒く尖っている。強引に腕を引かれて私はムッとなる。
「そうよ。あなたに会いたくなかったの! だから逃げ込んだの。あなたのせいよ」
「ああ、そうかよ。そりゃ悪かったな。いいから、とっとと屋敷に帰ってくれないか!」
苛立しげに怒鳴ると肩に担いだのだった。
フワリッ。まるで小麦のように無造作に運ばれてしまい、私は真っ赤になって狼狽したまま手足を揺らして、ジタバタと身体を揺らした。
「きゃっ! な、何なのですかーーー」
「家に戻るんだよ」
小屋の外に出ると、私の馬と並んで彼の馬が水路の水を飲んでいた。担がれたままの状態の私は不思議そうに言う。
「ねぇ、どうして、わたしが小屋にいると分かったの?」
「情けない事にオレは、ここに来る途中の道で倒木につまずいて馬ごと転倒したんだよ。無様にも脳震盪を起こして失神した。腕を蚊にかまれた痒さで目が覚めた。死ぬほど痒いよ」
「ふっ」
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