第一章 ユリウスとの出会ったあの日

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 ムスタールには、我が国から派遣された行政官や総督がいる。行政官が橋やダムや鉄道の建築を押し進めてきた。名ばかりのムスタールの王を操る傀儡政権が続いた。  十四歳以下の女子との結婚を禁じたり、下層民を改宗させて、我が国の宗教を教え込んだりすることも、その国の高位の司祭には目障りだったに違いない。  様々なことを押し付けた結果、彼等の反発を買う要因となり、四年前、ムスタールの辺境地で反乱が起きた。  我が国の提督は、ムスタール南部の港に停泊した後、暴動を終息させる為に兵を送り込んだ。提督は可愛い姪の安否を気にしていた。  提督の姪は考古学者だった。騒動のある町の近くの街の遺跡に取り残されていたのだ。 『なんとしても、姪のパトリシアを連れて帰ってくるのだ!』  特殊部隊が編成された。現地の地理に詳しい叔母の夫が道案内をこなした。その時、ユリウスは十八歳で七人の精鋭部隊の中では最年少だったという。  叔父達は武装ゲリラや盗賊にみつからぬように進んだ。凶暴な虎や毒蛇の脅威にも負けずに、提督の姪を救出する任務を果たした。二週間に渡る任務で苦楽を共にしたことによって、叔父とユリウスは固い絆で結ばれた。  二年前、叔母は得意げに話してくれたのでよく覚えている。 「帰国した夫は、陛下から勲章をもらったのよ。そして、海軍のムスタール南洋基地全体の補給を任されるようになったの。うふふ」  叔母の夫のダントンは小太りで陽気でエネルギッシュだ。若い頃の叔父は紅茶の輸入を扱っていた。最近は、ビスケットを製造しており、赤い缶入りのダントン印のビスケットは世界中に流通している。  往路でビスケットを運び、空になった船に紅茶を積んで帰還する。ビスケットを売ったお金で紅茶を仕入れるのだ。  叔父の似顔絵入りのポストカードが缶の底に敷かれている。ビスケットを買った人達によって、社名入りのポストカードが使われるので、宣伝費をかけずとも、社名は知れ渡っていく。叔父は商売の天才だ。  娘のコレットはは父親のダントンと同じ愛嬌のある顔をしており目尻が垂れている。優しい顔立ちなのに、体調が悪い時は顔が大きくむくむ。お肉を食べ過ぎることや、運動することを、医師から禁じられている。  身体は細くて見るからに儚げだ。寒くなると高熱を出すので南の島で暮す事にしたのだ。 『あたしは心臓が悪くて病弱だから長く生きられないかもしれない。こんな私を愛してくれる人がいるのかしら』 『いるに決まってるわ』  去年、そんなふうに励ました。コレットは体調がいい時は慈善活動に励んでいた。貧民にスープを配ったり、赤子の衣服を縫って寄付していのだた。私と違って、家庭教師がいなくても難しい本を自主的に読む。
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