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今更、そんな事を聞くのね。でも、今からでも遅くはない。ぜひ、コレットのことを知ってもらいたい。どんなに素敵な人だったのか、あなたに伝えたい。
「コレットは、みんに優しかったわ。使用人もコレットのことが好きだった。コレットは庭師のトムの為に野良着を仕立ててあげていたの。刺繍や編み物が得意だった。あなたの為にセーターやマフラーを編んでいたのよ」
「それは知らなかったな……」
深く心の底から悼むような顔をしている。
「オレは一度もコレットとは話した事がなかった。でも、ダントンから色々と聞いていたよ。控え目で穏やかで引っ込み思案な女の子だそうだね。オレは、それを聞いて、フレデリックと気が合いそうだと思っていたんだ」
「……でも、コレットが好きになったのはあなたなのよ」
それなのに、彼の心にはコレットの気持ちは届かなかった。
「もちろん、ちゃんと会話をするようになったら、オレもコレットを好きになっていたのかもしれないよ。でも、彼女は亡くなっている」
「生きてたら結婚したんでしょう?」
「いや。それは分からないな」
「どうして?」
「お互いの愛情を確認してからでないと無理だよ。相手がどんなに善良でも、どんなにお金があっても愛が無いと続かないからね。オレは、自分が本気で掘れた相手と添い遂げたい」
その時、無防備な内側を覗き込まれているかのような気恥ずかしさを覚えた。
そんなふうに見つめられると、胸の鼓動が耳まで届くほど大きくなるわ。
血の巡りが跳ね上がっていく。
スッと脇に身体を逸らすと、彼は苦笑した。
「君は、いつも逃げようとするね……」
気のせいかもしれないけれど、彼は、泣いているような情けない顔をしている。切ないような空気がこちらに伝わってきて、何かが胸に込み上げてくる。
きっと、私も困ったような眼差しを向けていたに違いない。
「さぁ、帰ろうか。君の馬も何とか歩けそうだ」
彼は、私を自分の馬の背に乗せると、負傷している私の馬の足を確認してから、手綱を握って連れて歩き出したのだ。いつのまにか東の空が明るくなっている。
私の馬の歩みに合わせてユリウスの馬が一歩前を進んでいる。
「どうやら、かなり君に嫌われているようだね」
ドキッと心臓が嫌な音を立てている。そうですと突き放したい気持ちと、違いますと否定する気持ちが心の中でぶつかり合っている。
自分の気持ちを推し量るのは難しい。それでも、心の声をすくいとるようにして深呼吸すると、喉から搾り出すように呟いた。
「き、嫌っていません。ちょ、ちょっと苦手なだけです……」
気持ちを正確に伝えたかった。視線を落としたまま小さな声で補足していく。
「あの、ごめんなさい。でも、あなたもズケズケと言い過ぎると思うの」
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