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恋の相談? 1
「で、高校入っても四人一緒かいな」
「おう。しかも同じクラスや。サッカー部も一緒やしな」
「どないなってんねん。普通は同じ中学出身を固めたりはせんやろ。なんや、マークされとんちゃうか、あんたら」
「俺らマークしてどないするねん」
「中学の方からお達し行ってるんちゃうか」
「一緒くたにしといた方がええてか?」
「そんなとこや」
「それか四人そろって一匹ってカウントされてるか」
「なんでやねん」
「なんにせよ、ケッサクやな」
さっきのおばちゃんがふたり分のコーヒーを運んできた。おやぶんは手刀で礼を言うと、ブラックのまま口へ運んだ。おばちゃんは、僕に奇妙なウインクを投げてカウンターに帰っていった。
「で、今日はどないしたんや、急に。林田から声かけてくるなんて珍しいやないか」
「まあな。久しぶりに中学の頃のアホと飲もか思ってん」
「どこの中年サラリーマンやねん」
「うるさいわ」
そう言いながらも、おやぶんは中学の頃のような覇気がない。事情はよく分からないが、こういうのは年々覇気が増していくものではないだろうか。舎弟に囲まれているのは好きではないのかもしれない。醸し出す雰囲気からは想像できないが、本当は友達とわいわいのんびりするのが好きなのだ。しかし、持ち前の迫力ある物言いやガタイ、いざという時に頼りになる親分肌と腕力は、ああいう舎弟たちが上下関係を築くには十分すぎる。盃こそかわしていないものの、彼らのような人種にとっては上下関係というのは何よりも大事なのだ。
「ところで、西田はどないや」
「おう、真木も岡本も、みんな相変わらずや」
「真木と岡本はともかく、西田が相変わらずいうのはええことやないんやないか?」
否定できないから悲しい。
「ま、元気なのはええこっちゃ」
おやぶんは細く微笑んだ。と言いたいところだが、にやついた、という方が表現的には正しい。
「それでや」
おやぶんはコーヒーを置き、本題に入るぞと合図した。
「うちの友達に、愛美いうコがおるんやけど、その愛美が西田に一目惚れしたらしいんや」
突然の言葉に、僕は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。それを敏感に感じ取ったおやぶんがさっと手を伸ばし、僕の顔を鷲掴みにした。
「おお、すまん。吹き出しそうになった。ありがとう」
顔を鷲掴みにされたおかげで噴出さずにすんだコーヒーを、何とか飲み下した。
「女子高生の真剣な恋に吹き出すて、どれだけ不謹慎やねん」
「突然そんなん言うからびっくりしたんや」
「あんたみたいな奴が、葬式で拍手打ちよんねん」
「それはそうと、いつ一目惚れなんかしてん?」
「あんた、たまに西田と一緒に電車乗ってるやろ?その時に何回か見かけて気になってるらしいわ。うちの中学の同級生や言うたら紹介してくれやて」
「それ一目惚れか?気になってるだけちゃうか?」
「うちからしたら立派な一目惚れや。ほんでな、ええで言うたんやけど、よう考えたら西田の連絡先知らんしな。村田やったら簡単に捕まえられるし、聞き出しとくわ言うたんや」
おやぶんが捕まえるというと、それは立派な「捕獲」である。
「そうなんや」
「うちも、あれは変態やからやめとき言うたんやけど、そんなん自分で判断する言うてるから」
「まあ、変態は変態やけどな」
「乙女の恋心は一途やねん」
おやぶんが「乙女の恋心」など似合わないことを言うか僕はまた吹き出しかけたが、今後は口の中に拳を突っ込まれて歯を折られそうなので、なんとか耐えた。
それはそうと、僕は少なからずがっかりしていた。そこは僕でもよさそうなのに、というよりも、惚れられたのが西田だということで、知的でクールな真木よりもイケメンで変態な西田が選ばれたということで、希望が少しそがれたような気がしたのだ。
もちろん嫉妬心はない。僕らの友情はこの程度のことで嫉妬したりヒビが入ったりするほどヤワなものではない。しかし、イケメンが他の三人よりも早くキスまでの階段を上ったかと思うと、少しだけ羨ましくはあった。
「せやけど、愛美てシャイなコやねん。普通に紹介してもふたりきりで何か会話ができるとも思えんし、西田かてそんな乙女心が理解できるようなもんでもないし。せやから、なんかええ知恵出せ」
「自分らで考ええや、そんなもん」
「うちかて頭千切れるほど考えたわ」
確かに、その手の知恵は備わっていなさそうである。
仲間想いなのである。男子に対して抑圧的で傍若無人極まりない態度を取っていても、嫌われるどころか妙な人気さえあったのは、ひとえに任侠道にも通じる漢気があるからだ。
しかし、今回ばかりは相談相手がまずい。その手の知識や知恵が僕に備わっていないことは、おやぶんも承知しているはずである。ゼロにいくらゼロを足しても何も増えない。それでも僕に言ってきたということは、よほど手詰まりかお先真っ暗か。
案の定、ものの二分で行き詰まったし、その二分だってアイデアが出たわけではなく、アイデアを出せそうな人物の名前がひとつ浮かんだだけで、それはもちろん真木だけだ。僕にはもっとたくさんの友人がいるのだけれど、この状況と西田の扱い方を考えれば、頼れるのは真木だけなのだ。もちろん、真木だって愛の伝道者などではなく、その手の知識はほとんどない。僕ら四人の中ではマシ、たぶん、という程度だ。
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