恋愛会議 2

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恋愛会議 2

 「じゃあ、西田」  本命の西田を指差した。  「俺は、そうやな。やっぱこれせな始まらんやろ」  えらく得意げな表情に、僕らの期待度は一気に上がる。おやぶも身を乗り出して聞く体勢を作った。  「なんや、それは」  「先生、キスがしたいです」  壊れるほどの鉄拳と衝撃が西田を襲った。しかし、そんなことでひるむ我らが西田ではない。頬を押さえながら「だってキスしたいですやん。思春期ってそういうもんちゃいますのん?」などとのたまった。もちろん、僕の意見は西田側だ。西田は僕よりも自分に正直なのだ、と信じたい。自分に嘘をついて生きていきたくないのだ、と考えたい。好意的に。しかし、どうやらそれは女の子ウケしないようだ。おやぶんは冷たい視線で「どアホ」と言った。  「いきなりそんなんしたら警察沙汰やぞ」  「俺、未成年やもん」  「アホ、補導くらいされるわ」  一喝すると、僕に視線を向けた。言葉にはしていないが、表へ出ろと目が言っている。  「ちょっと休憩」  おやぶんは言うが早いか、僕の首根っこを掴んで部屋の外へと引きずっていった。  「あかん。やっぱり愛美には紹介できへん」  「とりあえず、紹介だけでもしてみたらあかんか」  「愛美にしょうもないことしたら、これやで」  そう言うと、おやぶんは手刀で首をとんとんと叩いた。  「そもそも、紹介してなんとかなるもんやない。愛美はシャイやから、そこらへん乗り越えられるええ知恵出す為に今日は来とるんや」  その時、僕は素晴らしいアイデアを思いついた。テスト中だってこれほどの閃きは得られない。天から何らかの電撃的啓示があったに違いない。  そう、一対一で紹介するから駄目なのだ。一対一でなくしたらいい。  「どういうことや?」  おやぶん、この鈍ちんめ。  「せやからやな、大勢おる中で自然に紹介してもうたらええんやろ?そしたら自然と話せるようにもなるやろ」  「大勢おるとこて・・・・・・、大阪の駅前か」  「アホか。そういう人数の話してるんやない。つまり、四対四にして、全員で紹介しあったら自然やし、話す機会も増えるやろ。それに林田としても監視できるから安心できるやろ」  一度思いつくとすらすらと出てくる。  「おお、ええやないか、ええやないか」  なんとなく意味をつかめたおやぶんが僕の肩をバシバシと叩く。痛い。叩かれる度に身長が縮むのではないかと思えるくらいの衝撃だが、今はそれどろこではない。  四対四で紹介しあう。つまりこれは、あの伝説の、噂でしか聞いたことのない・・・・・・  「合コンか」  「そうや」  僕とおやぶんは手を取り合った。握りつぶす気かと思えるくらいの握力だが、アドレナリン垂れ流し状態の僕の前ではむしろ心地いい痛みと言えよう。  合コン。この甘美な響きに何を思うだろう。知っている単語ではあるが、初めて聞く外国の単語のようにフワフワと現実味が無い。  合コン。聞けば自然と頬が緩むが、それが一体何を指し、何をするのかはよく分からない。  それでもテンションがあがる。それが、合コン。  「せやけど村田、合コンって何すればいいんや」  「知るかいな、そんなもん」  「アレやろ?男女がグループで遊びに行くんやろ?」  「お、おお、それや。そんな感じや思うで」  「遠足みたいなもんや」  「間違いあらへん」  「それやったらユニバーサル・ワールドでも行くか」  「お、おう。それや。それを見越して俺は言うたんや」  「嘘つけ」  「遊園地、行こうやないか」  「テーマパーク言え。遊園地はお子様用や」  「そうやな。合コンやもんな。大人用行かなあかん」  電撃的に降り立った啓示のおかげで、西田だけではなく他の三人までもが出会いのチャンスを得た。それはつまり、春到来だ。ありがとう、西田。でかしたぞ、僕。  おやぶんはドアを開けると、ソファに腰を下ろして「決まったで」と、高らかに宣言した。  三人は驚きながらも不思議そうな顔をしている。  「何がやねん」と真木が口を開く。  「あんたら、来週の日曜は予定ないな」  「僕、釣り行こうと思ってんねんけど」と岡本が言ったが、おやぶんの一睨みで言わなかったことになった。  「で、日曜がなんやねん」  おやぶんはふふんと鼻息を漏らすと、もう一度全員の顔を見回し、言った。  「合コンや」  オオッっと声が上がる。事情を知っている僕ももう一度歓声を上げてしまった。  「とりあえず、何事も実践や。自分らに足りんもんは何か、実際に知ったら対策も打てる」  僕らは改めて歓声を上げた。たぶん、何度でも上げられる。僕ら思春期真っ只中のアホ高校生にとって、合コンとはそれほど重いのだ。  僕らはサッカーのサポーターのように肩を組んで喜びの声をあげ、鳴り止まない歓声の中でおやぶんはゴールを決めたストライカーのように満足そうに腕組みをしながら僕らの様子を眺めていた。僕らの気持ちは、またひとつ硬く結ばれたのであった。
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