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はじめての・・・合コン! 3
朝八時半にユニバーサル・ワールドの門前で待ち合わせなのだが、本日の合コンを成功せしめん為、男子たちは朝七時に大阪梅田駅構内にあるカフェに集合することになっている。興奮でなかなか寝付けなかった僕は結局朝五時に目が覚めてしまい、たった三時間しか寝ていないのに異様な爽快感で満たされた結果、六時半を過ぎた時点で梅田にいた。
集合場所であるカフェで漫画でも読んでいようと中に入ると、すでに岡本が到着しており、携帯ゲームを持っている。しかし、集中していないのは明らかで、目は泳いでいるし指が動いていない。気持は分かる。数時間後に訪れる幸せのことを考えると、ゲームのことなどどうでもいい。
「おう、岡本。めっちゃ早いやん」
「うん、目ェ覚めてもうた」
「俺もや」
僕が席に座ると、岡本が注文していたコーヒーが運ばれてきた。ミルクも砂糖もない、ブラックコーヒーである。
「ブラックなんか飲めるんか」
「訓練や。ブラックコーヒー飲める男はかっこええねんで」
岡本は得意げに言うとブラックコーヒーを口に運んだが、苦み走った顔をした。
「それのどこがかっこいいねん?」
「せやから訓練中やねんて。ブラックコーヒー飲めたら大人な感じになるんやで。それにほら、付き合ってる彼女の前でオレンジジュースは飲めへんやろ?」
僕もコーヒーを注文した。もちろん、大人なブラックコーヒーだ。
「苦いな。大人はよう飲んでるな。プライドか?」
「うちの父さんはいつもブラックやから、かっこいい大人は普段から飲めるんや」
岡本の家は父子家庭だ。男手ひとつで自分を育ててくれた父を誰よりも尊敬しており、岡本にとって「大人の男」「かっこいい大人」と言えば父を置いて他になく、堂々と言ってのける。
「大人になれば分かるっちゅうやつやな。なるほど、かっこいいな」
僕と岡本は顔を見合わせ、にやりと笑った。
六時半に真木が、その十五分後に西田がやって来た。
「なんだかんだで、全員昂ってるっちゅうわけやな」
真木が言うと、僕らは取り決めていたわけでもないのに声をそろえて「当たり前や」と言った。西田も岡本も、眩しいくらいキラキラした笑みを湛えている。しかし、どういう訳か、真木は少し深刻な表情だ。
「あのな、昨日気付いたんやけど、俺ら今日四対四やんか」
「おう、合コンやからな。楽しみでしゃあないわ」
西田が更にキラキラしたが、真木は依然として少し深刻そうだ。
「相手の面子、分かるか?」
「知らん。知らんからこその、合コンや」
よく分からない理屈だが、僕だって合コンに関する知識なんかこれっぽっちも持ち合わせていないから、西田が言うことももっとものような気がする。
「村田は、なんか聞いてるか?」
「いや、特に何も」
愛美ちゃんというコが来る、と言いかけたが、慌てて言葉をひっこめた。知っている理由を聞かれれば計画が破たんする可能性があるし、計画が破たんすれば僕が無事に帰宅できる可能性がなくなる。
「おやぶんが集めるって」
「そうやろ?」
何が言いたいのだ、真木。
「ひとりは、おやぶんや。つまり、出会いがあるんは三人や。全員やない」
今更ながら気づいた。なぜ気付かなかったのか分からないが、とにかく今気付いた。
しかも、おやぶんである。おやぶんは仲のいい友人だが、女子扱いをしたことはない。分類を問われるなら「漢」、もしくは「侠」。どちらも当て字でしか「おとこ」と読むことができないが、一部の人間からすれば「おとこ」としか読めない漢字である。おやぶんは、男よりも男らしいのである。身長は今でも僕らよりも高いし、空手と柔道で鍛え上げた腕力と体力、そして任侠道を進むことで養った胆力は、生半可な男子では相手にならない。
岡本と西田の顔に不安の色が浮かんだのを見た真木が、明るい声を出した。
「で、ええこと思いついたんや。というか、まあ当たり前の話やねんけど」
「なんや?」
またも三人が声をそろえる。
「ローテーションで行こ。一応合コンやから、向こうかて出会いを求めてるはずや。それを利用して、ペアで回るアトラクションは毎回違うコと乗る」
ごくごく当たり前の提案なのだが、なんだか金言を承った気分になった。昨晩同じような内容の話をおやぶんとしたが、真木が言うとなんだかきちんとした計画に聞こえる。
断わっておくが、僕らはおやぶんが嫌いなのではない。好きか嫌いかで言えばもちろん「好き」寄りなのだが、それは友人として、「漢」もしくは「侠」として好きなのであって、出会いの場で一緒にいたいかというと、少し違う。恋愛対象になるというようなことはない。そもそも、その迫力は僕らにある種のプレッシャーをかけ続けるから、気が休まるということがない。
「おう、さすがは真木や」
西田は喜んでいるが、こやつはハナっから安全圏にいるのだ。おやぶんだって、西田には愛美ちゃんと一緒に行動してもらいたいと思っている。そして、今気付いたのだが、僕の立場は西田の正反対、つまり、全容を把握しており、男子サイドの動向を簡単に把握でき、なおかつ先導できる人物である僕と、おやぶんは積極的に接触を図ることになるだろう。なんだか、ちょっと悔しい。
しかし、僕のそんな事情などお構いなしにし、岡本の主張のもとブラックコーヒーで乾杯した僕らは、苦み走った顔で今日の健闘を誓いあったのだった。
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