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青春とはなんぞや 2
そもそも、気づいたら付き合っていました、とは一体どういう状況なのだ。最初はお互い気にしていなかったけど、ある時ふたりは急接近、気がついた時にはもう離れられませんでした。そんな状況は接触事故しか考えられない。
では恋とは事故か。違う。「お互いもう歳だから」と、成り行きで結婚した倦怠期の夫婦にとってはある意味事故かもしれないが、思春期真っただ中の僕らにとって恋とはもっとプラトニックでピュアでパッショナブルでなければならないし、更に望むのであればハートウォーミングであってほしい。
「せやねん。聞いた話では成長する過程で恋のはじめ方を学ぶらしいんやけど、そんなもん学んだ覚えあるか?」
黙るしかない。
前述したが、僕らは今までずっとアホである。中学生時代、男子は女子ほど社会性や知性のある暮らしをしているわけではないので、アホでいられる。それでも一部の良識ある男子たちは、男子としては早い思春期の兆しを迎え、いっちょ前に女子の視線なんか気にしやがるから誇りないアホになり下がるが、僕らは女子の目どころか誰の目も気にしていなかったから、ただひたすらに、全身全霊、春先の台風のようにただまっすぐなアホだった。僕らが中学校時代にやっていたことといえば、夏休みに河童を探しに行ったり、夜な夜な学校に忍び込んではグラウンドでサッカーをして守衛のおじさんに叱られたり、誰が手すりを長く滑ることができるか競ったりで、当然女子には縁がなかった。
「でも僕は楽しかったけどなあ」
青春に恋愛よりも友情を望むスタンド・バイ・ミー信者が呟いた。そう、あの頃はそれでよかった。あの頃は女子なる存在には気づいていたが、そういう生命体がいる、というくらいの認識で、もっと大切なことがいくらでもあったのだ。全部アホなことだが。
「俺もそうや。もう一回中学校時代戻れ言われても、同じことするわ」と真木も同意した。あれはあれで、時代の完成を見たということなのだろう。
「とりあえず、映画が参考になるんちゃうやろか。フィクションやけど、描かれてるんは、いうたら理想形やろ?みんなが憧れてる」
真木が言った。激しく同意である。ああなりたい、こうありたい。そういった青春を描くからこそ、多くの人々が共感し、映画やドラマが大ヒットするのだ。
「つまり、理想のゴールを知っとこういうことやな」と僕が言うと、真木も「登る高さを知らんと攻略はできん」と答えた。
「それは大事やな」
神妙な顔をしているのは西田である。
「せやけど、ひとつ問題があるんちゃうやろか」
真木の言葉に、僕は彼を見つめた。岡本も西田も神妙な顔で真木を見ている。
「好きな映画を思い出してみいよ」と真木は言った。
お気に入りの映画を思い出してみたが、頭に思い浮かぶのはマッチョなアクション俳優が悪そうなやつらを華麗に倒すシーンばかりだ。西田はなにやらニヤけているし、岡本は間違いなくスタンド・バイ・ミーを思い出している。各々が何を思い浮かべているが察した真木が僕らの返事を待たずに話を進めた。
「な?このままやと、俺らはちゃう方向行くで」という真木の言葉に、僕らは危機感を覚える。
確かにそうである。僕らの映画観ではアクション、ロードムービー、あとはよく分からない方向にしか向かわない。女子をカンフーで倒したいわけでもなければそんな力もない。一部の女子には返り討ちにあう可能性が高い。
三人の中で一番正解に近いのは岡本だと思うし、そこから発展する恋もあるだろうけれど、不必要なステップが多すぎる。そもそも、僕らは“高校生の恋”がしたいのだ。旅の途中で恋に目覚めるのは三十歳を過ぎてからでも遅くない。
西田が思い浮かべたものはよく分からないけれど、とりあえず放置の方向で話を進めても大丈夫そうだ。親友として彼のために付け加えるなら、彼は決してエロいことを想像したわけではない。そんなことを想像できるのであれば、彼はもっと先に進んでいる。
「このままやと、もう一回繰り返しやな」
僕が言うと、西田が凄い顔をしてぶんぶんと首を振った。
「あかん。それはあかん。なんぼ楽しかった言うても、繰り返しはあかん」
ジャンルを問わず繰り返すことが苦手な西田は真剣だ。体育の時間は縄跳びを大の苦手としている。マラソンは走れても、景色が変わらないトラック競技だとすぐにバテる。
「西田の言うとおりや。あれは中学生の楽しみ方や。進化し続けることこそ大事や」
真木の言葉に、一同は「おお」と歓声をあげる。
高校生になって河童を探しに行ったり手すりを滑ったりするのが悪いとは思わない。夜中の校舎に忍び込むのは法的な問題が絡んでくるからやらないけれど、それらは「中学の青春」なのであって、僕らの考える「高校の青春」には「恋」の一文字が必要なのだ。進化とはそういうものだ。常に新しいものを取り入れ続け、とはいえ土台である「青春する心」が揺らぐことはない。それが受け継ぐということなのだ。誰から受け継いだのだ、というツッコミがきそうだけれど、決まっている。中学だった僕らから受け継いだのだ。
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