青春とはなんぞや 3

1/1
前へ
/73ページ
次へ

青春とはなんぞや 3

 ならばそれをどう始めるか。議題はそこから進んでいないのだけれど、真木は無闇に召集をかける男ではない。きっと何か報告があって僕らを集めたのだ。まあ、いちいち集めなくてもいつも一緒にいるのだけれど。  「まあ、さっきも言うたように、映画が参考になるかもしれんと思った。あくまで思っただけやけど」  うんうん、と三人は頷く。  「で、とりあえず何本か見てみた」  ほうほう、と三人が頷く。  「そこで、あることに気づいた」  うんうんうんうん、と三人は頷きまくる。  真木はそんな僕らをじっくり見たあと、言った。  「主人公はイケメンばっかりや」  雷に打たれた僕らは、互いの顔を見渡した。僕らの中でイケメンに分類されるのは西田だけである。いや、分類される、のではない。イケメンなのだ、西田は。不必要なほどに。ハーフと間違えられることも多い彫りの深い顔立ちと通った鼻筋、キレイな二重まぶた。しなやかで長い手足。一七八センチという高すぎず低すぎない丁度いい身長。実際、「中身さえまともなら・・・・・・」と、今まで数々の女子たちが、その整った外見と散らかった頭の中のギャップを惜しんでいるのを見てきた。  イケメン西田がなぜモテなかったか。簡単だ。アホだからである。変態だからである。深い友情をもってしても、西田はアホとしか言いようがない。  それでも一部の目の曇った女子たちには少しだけチヤホヤされていた西田だったが、中学二年の頃に起こった事件を境に、その女子たちの目が冴え渡ってしまった。今なお語り継がれる「金田サーキットとパンツ事件」である。  その年、僕ら四人に加え、別勢力のアホの筆頭だった金田が同じクラスになったことで、二年C組のアホ情勢に大きな動きがあった。今までそれほど絡んでいなかったとはいえ、それは同じクラスになったことがないというだけで、仲が悪いわけではないから、金田たちと僕ら四人はすぐに仲良くなった。ここらへん、アホ同士の連携はすごいのだ。  金田といえば「猪突猛進」「単純明快」良く言えば「天真爛漫」を絵に描いたような男である。本人はそれらを「質実剛健」だというが、意味は分かっていないに違いない。おそらく「剛」という字が好きなだけだ。  さて、問題は金田という人間ではなく、「金田サーキット」である。金田が発案した競技なのだが、考案者と同じくルールは単純明快、内容は猪突猛進、やる人間はある意味「天真爛漫」だ。  ルールは至って簡単。まず三階にある長い手すりを利用して、対戦するふたりが両端に別れ向き合って手すりにまたがる。競技開始の合図と共に壁を蹴り、手すりをすべり、お互いがどこまで近づけるかを競う、というものだ。単純に距離を稼ぐ脚力だけでなく、どこまで近づけるかというチキンゲーム的な要素も含まれているのである。  僕らはこのアホな競技に夢中になった。競技人口も多少増え、休み時間になる度に三階に向かった。始業のチャイムを聞いた瞬間から終業のチャイムが待ち遠しくて仕方がなかった。  そんな時、西田がこの競技を行う上で体操服が有利であることを発見した。西田曰く「その効き目、120%増!」なのだそうだ。その日から僕らは体操服で登校するようになった。もちろん授業中もそのままだ。体育のない日に体操服を着て登校するのは不自然に決まっているのだが、全ては金田サーキットの為だった。僕らとしては「学校指定の服で登校しているのだから、文句を言われる筋合いはない」と主張していたのだが、そんなものはアホ中学生の妄言でしかなく、学年主任の増田先生に「学ラン着て来い」と叱られてしまった。ぐうの音も出ないとはこのことだと知った。体育のない日に体操服を持ってくるのは厳禁で、西田と金田に至っては持ち物チェックまでされる徹底ぶりだった。  体操服が禁止されてから、僕らの記録は目に見えて悪くなっていったのだが、ある日西田が妙案を思いついた。  「滑らへんのはこの制服やろ?脱いだらええやん」  呆気にとられている僕らを尻目に、すばやくタンクトップとトランクスだけという格好になった西田は、その姿のまま手すりにまたがり、体を前後にゆすりだした。その姿の情けなさたるや、目を当てられるものではなかった。しかし、勇者西田は動じない。  「おお、結構滑るで。体操服よりもええわ。みんな、脱げ脱げ」  誰も脱がない。当たり前だ。アホと変態は別物なのだ。みんなが脱がない理由をなぜか理解できない西田は、何度も体をゆすりながら、「めっちゃええって」と連発していた。その姿は人として散々たるものであった。  誰も脱ぎたがっていないことに気づいたがはいいが、なぜ脱ぎたがっていないのかは気づけない西田は、勝負を持ちかけてきた。  「そないに疑うんやったら勝負しようや。絶対凄いから」  疑っているのではない。嫌なのだ。  受けてたったのは僕だ。タンクトップにトランクスの流れは、どうしても食い止めなければならない。使命と言ってもいい。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加