16人が本棚に入れています
本棚に追加
そして今、塔の明かりがふっと消えた。いつもの時間だ。牢屋の番人は、規則正しい人物のようだった。
白い寝巻きを脱ぎ捨て、黒いマントをはおった。扉を静かに開く。振り返ると、つむじの寝息がまだ聞こえている。この部屋は寝静まっていて、フーの衣ずれの音くらいではびくともしない。
フーは一番長いろうそくを手に取って、部屋を出た。思ったよりもロウソクの明かりは強かった。黒いマントで、出来るだけ隠して、進んだ。
一日で一番ひんやりした空気を吸いながら、木々に隠れて歩いていく。ウーの塔が、だんだん近づいてくる。闇がどこまでも追いかけてきて、フーの足が、速まる。
あっという間に、塔の前にたどり着いた。入り口の前には、門番が座ってうとうとしている。
「不用心な」
耳元でささやくと、門番は飛び起きた。
「はっ、失礼いたしました。……あっ、えっ? あの」
門番は黒いマントから照らされた顔を見て、驚いた。
「フー様」
「しっ」
フーは辺りを見渡した。無人だ。大丈夫。人の気配はない。
「私の名前を、呼ばないで」
「……はっ、すみません」
「お願いがあるの。何も言わずに、塔に入れて」
「はっ。……えっ? 塔に?」
最初のコメントを投稿しよう!