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フーは、疲れてしまった。
少し席を離れて、フーはバルコニーに出た。宴もたけなわで、バルコニーに出てくる人などまだいない。夜のじんわりした風に髪を揺らしながら、フーは夜の王国を見るとはなしに眺めた。
ハヤテは、すばらしい人だ。そう思った。ハヤテは見た目も中身も高貴な人だ。よく気がつき人望もあり、きっとあの方についていれば、フーは「何もしなくていいだろう」。
でもそう思うと、なんとなくフーは絶望的な気分になるのだった。
どうしてだろう。早くハヤテと結婚したいはずなのに、これはどうしたことだろう。
と、夜の空気が何かに染まった。
気配を感じて振り返ると、見知らぬ人が立っていた。
その人はバルコニーに続く数段の階段の途中で、倒れるように座り込んだ。
フーは、吸い込まれるようにして近づいていった。
「どうしたのですか」
「水をください」
フーはそうした。
その人は、水を一気に飲んで、グラスをフーに返した。
「ありがとう」
そして、フーをじっと見つめた。
金色の瞳だった。髪の色は青みがかった黒で、対照的に肌の色は白かった。
雨が降ったのかと思った。でも空には満天の星。
もしかして。
「あなたは、雨の国の人?」
「そうです」
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