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答えなくても、フーには分かった。
「ここは、空気がかわいているのですね」
その人は言った。
「ええ。だって、風の国ですもの。じめじめした雨の気配など、すぐに風が運び去ってしまぃますわ」
「そうですか。残念なことですね。雨は安らぎの時を与えてくれるのに」
「安らぎ?」
「安らぎというか。手を止めて、自分を見つめ直す時間のことです」
「ああ……」
フーはなんだか、分かったような気がした。もちろん、風の国にも雨は降るし、雨の国にも風は吹く。だからフーにも、雨の気分というのは知っている。
何もできない、というか何もしたくなくなって、ただ雨粒を数えるための時間。晴れてまた穏やかな風が吹く日常に戻ると、ほっと和らいだ気持ちになる。でも振り返ると、あの雨のじっとりと黙り込むような感覚も、なかなか忘れがたいものだったりするのである。
「あなた様の、お名前は?」
フーはたずねた。
「ウーでございます」
と、その人は言った。
「あなた様は、フー様でございますね」
「え、ええ、はい」
「私は、あなた様のお姉様に、私の兄を奪われました」
「……え」
ウーは、フーの手をとった。
「細い」
そして、フーの手の甲にキスをした。
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