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フーはしびれた。気が遠くなった。
しかし、細めた目の端に、ウーの背中ごしにナイフの光を認めた。
「フー様」
突然、二人の背後から声がした。
「あっ、」
手が急に軽くなって、見ると、フーの手元からウーの姿は消え去っていたのだった。
フーがウーを再び見かけたのは、早くも翌日の夜だった。手の甲に感触だけ残るキスのあとが、何となく気がかりで、昨夜と同じ場所でたたずんでいると、茂みの影からウーがまたもや姿を現したのだった。
「いつもここにいるのですか」
それが第一声だった。あいさつもできないのだろうか。礼儀を知らない人である。これも、雨の国の作法だろうか。
「こんばんは。またいらしたのですね。今夜は、パーティはありませんけれど」
「あなたに会いに来たのです。今夜も、昨日の夜も」
「まあ」
驚いた。そんなことを言われて、今日一番心が弾んでいる。
「おかけになって。お茶を」
「いえ、いいのです。あなたと、二人きりになりたいので」
そうしてウーは、しばらくフーを見つめた。
ウーの金色の瞳が、美しい。こんな色を、見たことがなかった。
「あなたは、お美しいですね」
「何を。あなたの方が、よほど美しい」
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