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フーの部屋の窓は大きい。だから、いやでもウーの塔が見えてしまう。朝と昼はその輪郭が光り、夜は塔の窓から光が漏れた。あの光を使っているのは、おそらく牢屋の番人だろう。囚人に光を得る権利はない。
ウーは今、暗やみの中にいる。
冷たい暗やみの中で、一人きりで。
フーは、ウーのことを思い出さずにはいられなかった。あの塔はいつまでも目の前にいるし、フーにはウーの記憶を消し去ることができなかったからである。
今まで王女として生きてきて、周りにいたのは常に高貴で優れた男であり女であったはずだった。なのに、たった一瞬出会っただけの、素性の知れない異国の男が、こんなにも頭の中を支配するのはどうしてだろう。
ウーが、フーを殺そうとしたからだろうか。フーは、ウーを恐れているのだろうか。
そうではない。ウーの塔を見つめるフーの目は、壁にはりついた蜘蛛を見る目とは、明らかに違う。
フーは、ウーをもっと知りたいと思っていたのだった。純粋に。何の根拠もなく。
だってあの時、フーが短剣に気づいた時、フーを殺す隙はいくらでもあったはずだった。
なぜ、ウーはフーを刺さなかったのだろうか。
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