4人が本棚に入れています
本棚に追加
シガレットルール 仮面家族
【あらすじ】
ある豪雨の夜、一家惨殺事件が発生する。
一家心中か他殺か。
春賀達は捜査を続けていくうちに奇妙な点がいくつか出てくる。この家族は何か隠している。
刑事春賀と部下澤村コンビのシリーズ。
****
赤が点滅し、雨の中大勢の野次馬に紛れながら俺達はテープの中に入った。
先に進むと血痕が段々とはっきりしてきた。
外見はとても綺麗な洋風の一軒家だった。
中がこんなにも禍々しいなんて思いもしなかった。
つんと鼻を突く生臭い匂いがする。
「かなり多量の出血か」
すぐに階段下にうつ伏せに倒れている女性を見つけた。彼女の背中は何十回も刺された傷がある。
「こりゃあひでぇ」
「怨恨ものですかねぇ」
顔をしかめる。
鑑識に仏さんはこちらです、と案内され奥に進むとさらにキッチンには二体、個室にそれぞれに一体いた。
どれもかなり損傷している。
玄関に戻ると泣き崩れる女性と脇に男が立っていた。
「どうも、刑事の春賀です」
澤村も挨拶を交わすと女性が頭だけ下げた。
通報を受けて駆けつけた警察官が俺達に説明した。
「ご遺族の方です。亡くなったのがこちらの方の娘である奥様と旦那さん、そして三人のお子さんです。」
閑静な住宅街で一家惨殺し世間を震撼させた湊川殺人事件を思い出させる。
「怪しい人物や恨みを持つ人などは思い当たりますか」
「いいえ」
「お金を貸し借りしてたなど聞いていませんか」
「ええ。そういう子ではありませんから。お金にはきっちりしていて。共働きなもので余裕はありました。しかし、この家のローンとして一部私の方から貸してはいましたけれど。」
これ以上何も出てこないか。
「ありがとうございます。ご自宅まで送って差し上げて下さい」
女性が帰ると俺達はソファに失礼して考えた。
「荒らされた形跡がなく、争ったような傷もない。強盗の線は薄いですね」
「それに背後から刺されている。完全に油断していたか不意打ちだったか。いずれにしても身内の線は強いな。」
「流石ですね。良くできました」
拳で殴る真似をする。
「仮にも上司だぞ」
澤村は腹の底では何を思っているのかわからない笑顔で俺の拳を掴む。
「聞き取りから始めますか」
まず、犯人の動機を探る。犯人像を掴む。それからだ。翌日、右隣の老夫婦に尋ねた。
「戸次さんと交流はありましたか」
ご主人の方が首を横に振った。
「いえ。挨拶を交わすくらいで。うちの妻がお子さんは高校生と大学生だと奥様から聞きました」
「それでは、ご家族の印象はどんな感じでしたか」
首を捻り奥様の方が答えた。
「一見普通の家庭で、休日は遊びに行くなど仲の良い家族でしたね」
「確かに」
どの事件が起きても周辺はこう言う。希に素行が悪いことがあるが、基本的には『大人しい人だった、そんなことする様には見えなかった、上手くいっていた』と言う。
「ありがとうございます。参考になりました。昨晩気になった点などはありませんか」
「いえ特に」
「叫び声などは聞こえましたか」
「いえ」
俺達はお礼をして周辺も聞き込みして回った。
つい口から愚痴が溢れてしまう。
「まったくあてにならん。何も有力な情報はないし、近頃は他人に興味もないんだから異変にも気づかないのか。皆口を揃えていや、そうですか、向かいの戸次さんって名前だけ知ってるって」
「僕もお隣さんの顔すら知らないですから」
「それはフォローになってないぞ」
澤村はニヤリと笑う。
ご近所付き合いがなくても流石に子供の親同士での知り合いはそこそこいた。
相当ショッキングな事件のため、どの人もショックが隠しきれない。
「戸次 恵さんの交遊関係などはご存知でしょうか」
「ええ、私は恵ちゃんと逢坂さんとランチ友達だったので。集まるときは基本的には三人でした。
恵ちゃんは三人お子さんがいるので、それぞれの学年に友人がいたそうですよ。この辺でいいですか」
玄関の向こうの子供達までもが不安そうな表情をしている。
子供達の聞こえないところで話そうとする人もいた。
しかし、子供もテレビを見ているもんだから事件については当然知っている。
今日で事件の日を入れて二日目だけど、未だに何も手掛かりがない。捜査本部も設置された。
俺達はいつも通りのらりくらり自由気ままに歩けない。上から言われたことしか出来ないが、俺はいつも余計なことをしてしまう。
「早く捕まえてほしい。安心して出歩けないわ。子供達を学校に行かせるにもそわそわして。集団登校と言っても学校にいる間は安全かと言ったら、そうではないでしょう。」
井戸端会議を横目に通り過ぎる。
事件当日は土曜日だった。全員が家にいたんだろう。
だから一人残らずやられてしまった。
報道陣が家の前をごった返していた。
こちらが事件のあった一軒屋です、と呑気にリポートしている。
最初のコメントを投稿しよう!