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強盗か無差別通り魔なのかわからない時点で正直、いつどこで現れてまた暴れだすのか分からない。
出来ればそんなニュースは聞きたくない。
事件は22時15分頃に発生したと思われる。
第一発見者は犬の散歩で通りがかりの上野さんという方だ。上野さんは戸次家から徒歩15分のところに住んでいる。一人暮しの二十代女性だ。
「当時の状況を詳しく教えて頂けますか」
上野さんはこくりと頷く。
「私がいつも通り仕事から帰って、22時30頃に愛犬のまるを連れてこの道を歩いていたんです。
元々この周辺は一帯お金持ちの家ばかりなので、普通なんですがステンドグラスの綺麗なお家だなぁとちょっと見上げていたところ、この時間なのに無用心に門が開いていたんです」
俺は相槌をうちながら情景を思い浮かべていた。
「そして、もう一つ変だったのが靴が扉に挟まっていて少しだけ玄関が見えてました。
これは強盗か、ないにしても無用心だと教えてあげることにしたんです」
なるほど、道理で全く関係のない彼女が平日の夜に他人の家の中まで入って目撃出来たものだ。
「何度かインターホンを押したのですが、反応がなく。家の中に一歩踏み入れたら」
彼女は黙り込んでしまった。
「不審な人物や車を見かけませんでしたか」
「人は歩いていませんでした。車も住宅街なのであの時間はなかったですね」
「そうですか。思い出させて申し訳ないのですが、貴女が見たのは玄関の女性の遺体ですか?」
「ええ。通報をした際は女性が倒れていると言いました。ニュースでは奥の部屋にあと四人いたそうですね。」
彼女は身震いをした。
「出来るだけ落ち着いて通報をしたのですが。あの時、犯人はまだ中にいたんでしょうか。」
「それはなんとも言えません。」
「ニュースでは心中なのではないかと言われてますよね」
「ええ」
皆、背中からやられているのに心中も糞もないだろう。自分で背中に刺す超人などいるものか。
「一人暮しだとやっぱり不安で」
「捜査中でして、お恥ずかしながら何の手掛かりも掴めていないのです。また分かったことがあれば、私までご連絡頂ければ。ご協力ありがとうございました。
それでは、失礼」
上野さんは玄関の扉越しに会釈をした。
「背中から刺されたからって完全に他殺とは決まらない。お互いに刺し違えたのかもしれない。凶器はまだ見つかっていないし」
家族の個々の様子を調べてみることにした。
「まずは交遊関係からもう少し洗い出してみるか」
まずは長男の友人だった守山さんを尋ねた。
「守山さんですね。弘之さんと最後まで連絡をとっていた履歴がありました。弘之さんとは中学高校と同じところに通っていたそうですね。弘之さんはどのような人でしたか」
「弘之君はとても真面目な人でした。
面倒見もいいし成績も中高と良くて、大学もその辺では知らない人がいない私学に行ったよ。
優しくおっとりしていてモテるタイプではなかったですけどね」
「何か恋愛のもつれだったり、仲が悪い人は思い当たりますか」
彼は首をふった。
「そんなの彼に限ってありませんよ。全然怒らず温和で争いを避ける人でしたし。悩み相談を皆してましたよ。頼りになる彼が恨まれるとは思えませんよね、惜しい人を失くしたなぁ。」
「そうですか。お忙しいところご協力ありがとうございました。」
彼の大学の頃の友人と、会社の同僚にも聴取する。
それぞれの聴取は割愛する。
「大学の頃は、かなり明るくて面白い人だったようでムードメーカーって言われてた様です。まぁ、高校まで勉強一筋だったんでその反動でしょうか。」
「ん、それはまぁいいとして彼を恨んでいたり、羨ましがってる人物は」
「いえ特にはいません。羽振りもよく後輩人気があって、バイト先でも古株になって頼られてたとか。
就職は事務職で会社の総務関係をされていて、先輩や上司からも可愛がられていたと。
他の人をあたった方がいいのでは。何も出て来ませんでしたね」
彼の周囲に怪しい陰は見当たらない。長女の明梨さんと次女の友里さんの周辺を聞いてみよう。
明梨さんの高校時代の友人である篠原さんに大学の近くのカフェで話を聞いた。
「まさか、明梨ちゃんがいなくなるなんて。
沖縄旅行に行く約束をしていたのに信じられないです」
彼女は葬式の参列者リストに載っていた。
「彼女は大人しくて可愛い子でしたよ。絵に描いた優等生でしたし。高校卒業したらすぐに市役所に正職員で勤めたようですから、かなりの実力者なんです。」
「なるほど」
「責任感が強くて、曲がったことが嫌いでしたね。
不真面目な人とは距離を置いてましたし、とことん知りたいことは調べてました。
私とはオタク仲間で好きなアニメや漫画の話をしたり、コミケに行きました。」
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