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見かけに依らず、今時の女性は俺達の思うオタクとは違う。容姿もばっちりきめている。
「彼女は正義感が強いのでたまに人と衝突してました。常に正論を言ってしまうので、苦手だと思っている人もいたのではないでしょうか。
今回の事件に関係あるかどうか分からないですが、思ったら本人に注意をしてしまうので、もしかしたらそこで相手の逆襲にあってしまったのでは」
「なるほど。突発的な事件に巻き込まれた可能性もありますね。貴重な情報提供ありがとうございます」
明梨さんの友人と別れて、友里さんの友人のもとに向かう。
「今時のオタクって若くて綺麗な人もいるんだな。日常生活をきちんとこなし、その間に活動するのか。昔とは変わったんだな」
「古い考えですね。僕もアニメと声優が好きで、家に帰ったら毎日アニメ見ますよ。非番の日なんか一日漫画読んでますし。勿論、イベントも参戦しますよ」
澤村こそ引きこもりだの馬鹿にしてそうなのに意外だった。
「そうか。澤村が意外だな」
「僕はやっぱり頭良さそうだから、小説とか読んでそうに見えますか」
軽く拳で頭を小突く。
「いて、本当のことじゃないすか」
そういうことを言ってのける澤村の精神を疑う。
高校に入ると、スーツ姿が妙に浮く。
じろじろと子供達がこちらを見る。
「先ほど連絡を入れた刑事の春賀です」
校長室に案内されると、校長と担任が待っていた。
「戸次さんの事件で生徒達はパニック状態です。彼女の友人は寝込んで休んでいます。本当に痛ましい事件です。
彼女は優等生ですから事件に巻き込まれる様なことはしません」
「ほぉ、生活態度は至って真面目だと」
「ええ。提出物を忘れることはないですし、クラスでは目立たない静かな方でしたが友人はたくさんいました」
「何か変わった様子は」
「特には。先週もいつも通り通学していました」
だろうな。何かあっては困る。
「仲のいいご友人から話を聞くことは出来ますか」
校長と担任が同時に首をふった。
「しばらく無理でしょう。大分と参ってますから」
俺達はまた現場に戻った。やっぱりまだ野次馬がうじゃうじゃいる。
報道陣を横目に現場に入った。
鑑識の奧野がまだ作業を進めていた。
「ご苦労様、まだかかりそうか」
「それはもう」
奧野は苦笑いを浮かべた。
「血飛沫が意外にも広範囲に飛び散ってて、手掛かりも見つかりにくい。指紋は検出されないし」
「俺達は俺達でやるよ、ありがとう」
俺と澤村は玄関に戻った。
綺麗に整理されていて、大理石の床だった。
外観は普通の一軒家だったが意外にも金がかかっている。
靴箱にはそれぞれの靴がぎっしりとつまっていた。
「ここは異常無し。この絵はご主人と奥さんの新婚旅行先で買ってきたそうだ」
中に入ると、すぐに階段が現れた。
「奥さんの恵さんはここで倒れていたんでしたね」
「刺されてから階段から落とされたのか、倒れてから刺されたのか。犯人は心中の場合はまずご主人で間違いないな」
澤村が首を振る。
「確か、弘之さんは社会人の26歳でお父さんよりも体格がいいですからお父さんと刺し違えたのかもしれませんね」
「んー確かに。今のところ外部からの痕跡もないし、靴の跡もない」
キッチンとリビングに向かう。
「こちらのご家族はスリッパをはいて生活していたいたようなので各々の足跡もありません。かといって他の足跡もなく、これは他殺の場合はかなり緻密な計画的殺人ですね」
確かに痕跡が全く見当たらないのは家族以外の他殺と考えにくい。
「近くのご実家に住んでいる戸次浩介さんのご両親によると、年末年始は全員で泊まりにきて親の贔屓目でなくても家族の仲は良かったみたいですよ。
数年前までは浩介さんと思春期の弘之さんは喧嘩ばっかりで、一時は弘之さんを実家から追い出そうとしたことがあるそうですが。
今は毎晩、晩酌するとか。」
凶器は未だに見つからない。
「この中の誰かが家族を殺したとして、自分も死ぬまでに凶器を処分出来るものか。ほぼ不可能といっていいだろう。」
この事件は不可解な点が多い。
キッチンの刃物や机の中、ペン立てのハサミなど全て捜索班が確認し、持ち帰ったが凶器と思われるものはない。傷口の隠蔽工作も見られない。
包丁の刃渡りと恐らく型番までは判明しているのに肝心のものがない。凶器はまずこれで間違いないだろう。
ポケットの携帯が震えていた。
「はい、春賀です」
電話の先は捜査本部からだった。
「春賀、澤村も一緒か。飯尾だ。
家の中から家族以外の指紋が検出されたそうだ。
指紋から取ったDNAから大柄な男だという情報がわかった。殺人を視野にいれて捜索するように」
「はい、かしこまりました。失礼します」
電話を切ると澤村はつまらなそうに公園を眺めていた。
「で、何だったんです」
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