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2 新任太守
日が明けた。
碑林村の主な被害は、燃えた二つの小屋で終わった。
楊碧は早馬を走らせて、河宅の捜索を命じた。
楊碧本人は、河良と荒くれ者たちを数珠繋ぎにし、河良に着いてきた長安防衛隊は武装解除させて、引き連れ、長々とした行列を作り、長安へ向かった。
かつての長安の皇宮は、本朝では行宮になっている。後宮の部分は、皇后宮になるべき殿舎のみを除いてすでに取り壊された。
長安の正門たる明徳門から長安の城市にあたり、朱雀大路に入った。その正面にある朱雀門から長安の行政機能を兼ねる行宮になる。
朱雀大路に入ると、楊碧はわざと露払いに歩みを遅くさせた。
「新任長安太守、楊叔翡の入城なり〜」
「叛徒・河良を捉えた〜」
誰かが河良に向けて石を投げた。
楊碧はさせるがままにした。
ー良い獲物であったようだ
この古都の人の恨みを買う人物を捉えたのである。
無表情のまま歩くが、内心はほくそ笑んでいた。
「府君!」
「府君に幸あれ!」
誰かが楊碧を讃え始めた。
「府君!府君!」
その声が人を巻き込み、大きくなる。
楊碧の仕込みであった。
行列はわざわざ通り道をして河宅の前を通った。
河宅にはすでに人をやり、捜査の手が及んでいる。
貯め込んだ財産であろうか。何かが運び出される。家族にあたる者が門の前に列をなし、数珠繋ぎになっていた。
この河宅に至るまでに、何度か河良一行には石が投げられ、すでに河良の頭から血を流す始末である。
ところが、ここまで至ると、恩を受けた者もいるのだろう。
「河良は叛徒なり〜」
楊碧は、その言葉に続く声が小さくなると踏んでいたが、その声は小さくなることはなかった。
ーこの城市の憎しみを一身に受けるか
呆れなくもない。
呆れ果てた楊碧に隙があったのだろう。
ヒュンと何かが楊碧に向かって飛んだ。
カチンと金属と金属のぶつかる音がした。
落ちたのは簪だ。
楊碧の後ろに控えていた周江にはまだ術がかけてあり、剣で楊碧の身を守ったのである。
女は防衛隊によって取り押さえられた。
楊碧の行列の末尾に、河宅にいた者たちを連ねて、一行は無事に元の皇宮の一部であった、太守府に入った。
河良らの取り調べは、護衛隊が担った。
十日間の取り調べの結果、国家の転覆までは狙っていなかったが、楊氏一族に対する憎しみが強く、新任太守の楊碧を加害する心があったことは明らかになった。同時に、この大夏帝国では許されぬ、十日で一割もの高利貸しを行い、その結果、自作農の村を買い取ると言う形で我が物にしていたことも判明した。
長安防衛隊の方にも、河良らからの金銭を受け取った者がいた。それゆえにあの晩にいたのである。
長安防衛隊を一度解体せねばなるまい。
楊碧はすぐさま、北方の燕におられる今上に、自分が別院を作ろうとした村が襲われ、その中には長安防衛隊がいたことを書き記し、長安防衛隊の再編成を願った。
長安は、西域の入り口である。最近、再び騎馬民族が活発な動きを見せる。これを注視するために、今上は皇族の一人を送り込んだ。
その防衛隊に汚職があるのだろう。一度解体せねばならないが、新任の太守一人ではできない。
次は河良の一族である。
成人男子は九族に及ぶまで処刑する。
使用人でも、成年男子まで処刑する。
妻がいればそれも処刑されたのだが、河良にはいない。
女子と未成年の使用人は掖幽庭の奴婢として、都に送られるべきなのだが、事実として楊碧は女に襲われた。その女は、河良のドラ養子の身の回りに仕える奴婢である。
これがあのおしゃぶりが本当に愛した女であろうな
そのため、九族に及ぶまでの老若男女全てと、成人の使用人までを処刑することにした。
本来未成年の男女の使用人を奴婢として掖幽庭に送ることにしたいが、河宅には十八歳以下の使用人はこのときはいないが、使用人らに子は存在する。子らを放置しても不幸な結末が見えているだけだ。その子らを保護するために、掖幽庭に送る。
そのように取り決めたが、ことがことだけに、これもまた長安太守一人では決められない。この古都のある陝西の地一帯は、父の秦王が封じられた土地でもある。今は実質的には、世子が取り仕切る。
そして、皇上にも上奏しないわけにはいかない。
楊碧は、第二陣として、秦王へと宛名書きした世子に当てた折子と、全く同文を燕の皇上へ上奏する折子を書いて、都・開封へと送った。
ーおそらく、罪は軽減される。
そういうものと楊碧は心得ていたし、帝のためにその余地を残してある。
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