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周江から見ると、楊碧は小柄である。
髭も生え揃わないと罵られたが、江南は暑く、男は髭を剃るものなのだと楊碧は笑った。
まだ髭も生え揃わない周江は、つるりと頬から顎を撫でて、ふむと思った。
楊碧本人は髭を剃るが、中原以西の髭を剃らない男たちに文句を言うことはない。
髭は象徴的だ。江南のやり方に従わねば殺すというわけではない。
汚職を取り締まり、富を分け与える。
飛び抜けて豊かな者はいないが、飛び抜けて貧しい者もいない。生活のことを気にせずに澄む、そういう世の中を大夏帝国は目指すと言った。
「早いとこ実現しないとな、仙人になる前に死んでしまうからな」
真面目な顔で楊碧は言った。
「私は、成人したらどうしたいかと言う問いに、華山で修行したいと申し上げたのだよ」
楊碧が「申し上げた」という言い方をするのはごくわずかで、今回のその相手が皇帝その人であることを、周江は聞きとった。
「そのために何をすべきかと問われれ、こうお答え申し上げた。楊家に生まれた以上、この国を安定させた上で、仙道に入るべし」
やりたいことは他にある。だからこそ、今は尽くすと言ったのだと、周江は理解した。
一つ、不思議だと思うのは、あれ以来楊碧が術を使うところを見たことがないことだ。
周江は従者である。十日に一日くらい休みをくれるし、書院で仕事をしているときには、扉口の前に立って、誰も入らぬようにすれば良いだけなのだ。扉口は開いたままである。
中で、筆を勝手に動かす術を使っているようではない。
それにしても周江は訝しく思う。
「これだけで、生きていけるのか」
もらう給金のことではない。
課される仕事のことである。
たったこれだけのことをして、生きていけるのかと思うと、確かに人がお偉いさんと親しくなりたがるのもわかるようになった。
それに、術が使えるようになれば良いなあと、ぼんやりと周江は思うようになった。
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