五十円女

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権田に強く言われて、凡子は、膝をついて拾おうとした。 涙が、出た。 しゃがんだ拍子に、肩掛けしていたトートバッグから、いつも持ち歩いて勉強している教材が滑り出た。 凡子は、教材を慌ててトートバッグに入れた。 そして、50円玉に手を伸ばす。 土砂降りの中、ずぶ濡れになって。 と、雨が止んだ。 誰かが、傘を凡子に差しかけていた。 凡子は、見上げた。 30代くらいの、目鼻立ちの整った、背の高い男の人だった。 その人は、しゃがんで、側溝から50円玉を拾った。 そして、権田に渡そうとして、止まった。 「ああ、あんたは、いらないんだったな。50円じゃ、何も買えないから」
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