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もう片方の脚も格子へ伸ばし、私は大きく欄干から身を乗り出した。
彼氏とは、10年付き合った仲だ。
それなりに楽しいこともあった。
あったはずなのに、何故だろうか。
何一つ思い出すことが出来ない。
私は本当に彼を愛していたのだろうか。
いや、愛していた。
愛していたから、狂う程に叫び、携帯を破壊し、そのまま彼の家から飛び出してきたのだ。
愛と憎悪は表裏一体だと言うが、その通りだと思う。
仄暗い川底から立ち昇る水臭さ。
昨日彼とこの橋を歩いた時は不快に感じたものだが、自然と落ち着く。
上半身はもう橋にはない。
川底へ向けて、顔を真下へ向ける。
彼とは大学時代、遠距離だった。
「帰る帰る」と言って帰ったはいいが、その数日後、また大学で彼を待つ友達のところへ行ってしまう。
電話もかけた。メールも、手紙も送った。
1人アパートで暮らす彼の事を想い、何度か食事を詰めた荷物も送ったが、何一つ返事はなかった。
彼の心にあったのは、私ではなく誰かの存在だったのだろう。
私ではない誰か。
それが例え友達であったとしても、私の心は大きく乱れた。
何度打ちのめされたことか。
しかし私は、彼を信じた。
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