第五章〜光希の体験

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第五章〜光希の体験

 そこから、しばらく彼女と仲良く話したの。結構突っ込んだ話もしたわ。彼女の身の上話を聞くと、随分と繊細なお嬢さんなんだなってわかった。  中高一貫の女子校に通ってて、高校生になった時、それまでのように良い成績を取れなくなって、軽い摂食障害になったらしいの。で、同時に不登校になって、私と同じ診断が下りて、入院したってことだった。  私とは育ち方も家庭環境も全然違うのに、同じ病気とは皮肉だなあって思ったな。私なんて、子どもの頃に両親が離婚して母親に引き取られたけど、母親も今の私と同じ病気で何年も寝たきり生活だった。  私が彼女くらいの年齢(とし)の頃、母の介護やお金の苦労があって、他人に気を遣って生きてきて、そこそこエリートの旦那捕まえて。  ようやく幸せな生活を送れるようになった途端、精神科入院よ。  全く、なんだってのよ。  甘ちゃんよね。  彼女は、私がいらいらしてるのに全然気づかない様子だったんだけど、突然立ち上がって、「あ!」って、小声で言ったの。  そして正面を向いたまま、「あの子、また来てる」そう言って歩き始めた。彼女の背中を見送り、私は苛立ちを抑えようと深呼吸して、両腕を水平にして軽いストレッチを始めたの。  彼女は、といえば、病院の門扉(もんぴ)近くまで行って、立ち止まって少しかがむような姿勢を取っている。 (何してるんだろう?)  その姿勢のまま、何か喋っているみたいに見えたわ。そのうち、驚いたように上半身を起こすと、こちらに向かって走って来たの。  必死の形相で走って来たから、「何してんの?」って聞いたら、「かくれんぼ!」って叫びながら、病棟の方まで走って行ったわ。  何言ってるんだろう? かくれんぼ? 誰と? そういえばさっき、「あの子また来てる」とかなんとか言ってたけど。 『あの子』って誰?
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