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第六章〜光希の体験
私は首をひねりながらって、ほんとに首を傾げたりはしてないんだけど。彼女の不可解な行動をどう受け止めたらいいかわからないまま、自分の病室に戻ったの。
そしたら、彼女は既に戻っていて、ベッドの下に潜り込んでいたのよ。
「何やってんの⁉︎」
驚き呆れ果て、私が大声で言うと、彼女が「しっ!」と、人差し指を唇の前に立てて、「静かに! かくれんぼしてるって言ったでしょ」って答えた。
「何言ってるかわかんない」
私はわざとらしいため息をついて、自分のベッドに横になったの。
そしたら、ガッという音がして、勢いよく病室の扉が開いたのよ。
誰が来たんだろう? しかもノックもなしに?
不審に思って、ベッドからわずかに身体を起こして、入り口のほうを見たけど、誰もいない。
でも、ペタペタッという、裸足で床を踏むような、小さな音が聞こえる。私はぽかーんとして、扉を見つめていたの。ひんやりした風が入って来た気がして、なんとなくだけど、異常事態って感じした。
「だれ⁉︎」
私の叫び声に、ペタペタいう音は止んだの。もう訳がわからないままゾッとして、ベッドの上でずっと同じ姿勢で固まっていたの。
「見ーつけたっ!」
子どもの声が響いて、うふふキャハハっていう笑い声も聞こえて。
何が起きてるの?
「ああー! 私の負け。今度は私が鬼ね!」
ベッドの下から悔しそうな声がして、彼女がのそのそ出て来たの。
「ちょっと! なんなの、今の声? 誰がどこに隠れてるの?」
私の叫びに対して、彼女が「え?」と私を振り返って見たんだけど、その時の彼女の顔……。
目がつり上がり、唇を噛んでるんだけど、涎が垂れていたの! 涎はツゥって糸を引いて床に落ちて、彼女はニタッと笑って、部屋から飛び出してしまったのよ。
私は全身が硬直したみたいになって、しばらく呼吸すら出来ないくらい動けなかった。
とにかくナースコールで誰かに来てもらおう、ってボタンを押そうとした瞬間、窓の外を大きな鳥みたいな影がよぎり、ドサアッ! ってすごい音がしたの。
私はまさか、と思って、窓に飛びついたんだけど。そうなの、そのまさかが起きていた。
両手両足が不自然なまでに曲がり、地面に這いつくばるように倒れている彼女の姿があった。
入院患者は立ち入りを禁止されている屋上から、彼女は落ちたの。
いつも施錠されている扉を、どうやって開けたのかはわからない。けど、彼女は屋上に出て、そこから転落したことは間違いない。
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