2/3
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 陽気にモップで床をなでるティムの姿に、遠藤は既視感をおぼえた。  ――なんだ……どこかで……ああ……ほうき持って……レレレ……あの人か。 「君さ……なんでそんなに嬉しそうなの?」  ティムはしみじみとした笑顔で答えた。 「だって、夕立って、なんかこう、来たーって感じで、テンション上がりません? この実験が始まるとき、夕立で分かったことなんだし、どうせなら雨も降れば面白いのに、って呟いたらほんとに水が落ちてきたから、もう驚いちゃって」  遠藤は、彼を視界に入れないように目を閉じた。 「そういうこと、ね」 「順調に行けば、あと三日で地球に帰還ですねえ。リーダー、帰ったら真っ先に何します? 私は決めてます」 「あといいから、黙って、拭いて」 「分かりました」モップが二往復した。「スーパー銭湯に行きます」 「好きにして。もう、水とかお湯とか言わないで」 「了解しました」  キーボードに向き直った遠藤の背後から、鼻歌が聞こえる。   ふんふん、ふーんふふふふん、ふん、ふーんふふふふーん。  ――「雨に唄えば」、かな。 「アリソン・D・ロバーツ博士  何度も申し訳ありません。先程のファクターXですが、もしかすると、こちらのサブリーダーが実験に何らかの影響を与えたかもしれません。詳しくは後程。  遠藤航輝」  そこまで打ち込んで、遠藤は手を止めた。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!