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陽気にモップで床をなでるティムの姿に、遠藤は既視感をおぼえた。
――なんだ……どこかで……ああ……ほうき持って……レレレ……あの人か。
「君さ……なんでそんなに嬉しそうなの?」
ティムはしみじみとした笑顔で答えた。
「だって、夕立って、なんかこう、来たーって感じで、テンション上がりません? この実験が始まるとき、夕立で分かったことなんだし、どうせなら雨も降れば面白いのに、って呟いたらほんとに水が落ちてきたから、もう驚いちゃって」
遠藤は、彼を視界に入れないように目を閉じた。
「そういうこと、ね」
「順調に行けば、あと三日で地球に帰還ですねえ。リーダー、帰ったら真っ先に何します? 私は決めてます」
「あといいから、黙って、拭いて」
「分かりました」モップが二往復した。「スーパー銭湯に行きます」
「好きにして。もう、水とかお湯とか言わないで」
「了解しました」
キーボードに向き直った遠藤の背後から、鼻歌が聞こえる。
ふんふん、ふーんふふふふん、ふん、ふーんふふふふーん。
――「雨に唄えば」、かな。
「アリソン・D・ロバーツ博士
何度も申し訳ありません。先程のファクターXですが、もしかすると、こちらのサブリーダーが実験に何らかの影響を与えたかもしれません。詳しくは後程。
遠藤航輝」
そこまで打ち込んで、遠藤は手を止めた。
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