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国道が峠に向かって登坂になり、車の数が減ってきたあたりだった。
それまで見えていた夏の濃い青空と白い入道雲はみるみる鼠色に変わり、指で丸を作ったほどの大きな雨粒がばちばちと音を立ててフロントガラスにぶつかり始めた。
「うわあ、やっぱり夕立、きましたねえ」
運転席の遠藤淳一は、ワイパーの速度を一段階上げた。
その瞬間。
周囲の景色が何の前触れもなく、まばゆい白へと変わった。
「ワイパーが爆発したと思った」と淳一はあとで語った。
たくさんのランプが一斉に点いたかと思うと一斉に消え、車は慣性のみでゆるゆると路肩まで這うと、「オラは死んじまっただ」と力尽きた。
直後、ふたりの車を追い越した大型トラックが、目の前でハザードを点け停まった。
その運転席から、パンチパーマのおじさんがパシャパシャと水を跳ね上げて駆け寄って来る。
「白い光のあとに、パンチパーマ。なぜかはわからないけれど、死を覚悟した」と、また淳一はあとで語った。
おじさんが淳一の横の窓をこつこつと叩く。淳一が開けることをためらっていると、おじさんは強くなり始めた雨を避けるようにTシャツの首を頭にかぶり、千と千尋の神隠しのカオナシへと変化した。
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