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「あの中で氷晶と水滴がこすれ合って、10億ボルトの凄まじい電気を生み出してる。落雷一回分のエネルギーは、街一年分の電気を賄えるんです。それだけのエネルギーは、時間とか空間を飛び越える道を開くんじゃないかって。なんかの雑誌に投稿してみようかなあ。でも、変だっていわれますよねえ」
恵莉は思わずふふ、と笑った。
「やっぱ、おかしいですよね」
ひらり。
「ああ、ちがう。私も昔、かみなり雲の中には何かいそうだなって思ってたこと、思い出して」
ひらり。ひらり。
「分かります。……止みましたね、雨」
ひらり。ひらり。
「ほんと。あっという間だったね。JAF、そろそろ来るかな」
ひらり。
ひらりと一枚の小さな紙が舞い降りて、フロントガラスにぺたんと貼りついた。
「お、何だ? もしかして⁉ 俺たちに関係あるやつかも⁉」
淳一は勢いよく外へ飛び出した。
濡れたアスファルトが雨上がりの空を反射して、辺りはすっかり明るくなっている。開いたドアからひんやりとした空気が流れ込んできて、恵莉はその空気を思い切り吸い込んだ。
紙切れを手に運転席に戻って来た淳一は、口を少し尖らせた。
「どこかの家族の写真ぽい、です。じいちゃん、ばあちゃん、夫婦に孫。知った顔はないな。俺には関係なさそう。……恵莉さんは?」
渡された写真を受け取って、恵莉も手のひらほどのそれを見た。
「……ううん、うちでもない」
「ただ、飛んできただけか。そう、うまくはいかないですね」
「でも、いい写真……」
言いかけて止めた。
――淳一君とこは、ずっとお母さんと二人きりだったはずだ。
察したように、淳一が言った。「大丈夫です。その……恵莉さんのおかげです」
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