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 そして、言おうかどうしようか、というふうに何度か首の後ろを掻いて、それから話しはじめた。 「あの頃、親が別れたでしょ? なんかいろいろ全部流したい気分になって。誰かに見られたら、シャンプーしてます、って言い訳しようと思って。ほんとはマッパで出たかったんですけど、さすがにそこは自主規制」 「そしたら恵莉さんが傘、差し出してくれて。……あれ以来、心折れそうになるとあの傘が頭の上に」 「だから、いつかお礼がしたいなーって。わざわざ、家にお邪魔するのも気が引けたし。そしたら、職場一緒で。話すチャンスできて、ほんとラッキーでした」  恵莉の中で、心の気圧と気温が、一気にがくんと下がった。  ――そっか、お礼。全部、謝礼、だったのね。送り迎えも。ひまわりも。その笑顔も。  恵莉は自分に言い聞かせるように、さっぱりと言った。 「……そんな、たいしたことじゃないよ」  そして何とか微笑んで、写真を淳一に返そうとした。  写真を持つ恵莉の指が、受け取った淳一の手と触れた。すぐに離れると思った手は写真を挟んだまま絡まった。それぞれの指が、相手を探すようにそれぞれの指を撫でた。  西日が車に差し込んで、燃える色になった。  恵莉は目を伏せた。  ――何も起きなければ、あの眩しい夕日に目がくらんだとか、言えばいい。  そっと唇と唇が触れた。  引き波のようにすっとからだが離れた途端、淳一は夕陽と同じ色になった顔を両手で覆ってうつむいた。 「すいません」 「……なんで謝るの」 「あー。最初はお礼のつもりだったんです。でもすぐに。恵莉さんにオッケーもらえるように、ちゃんとしっかり準備して、って思ってたんですよお。なのに」 「意外と……がちがちに計画練るタイプ?」 「もう……ええと……付き合ってもらえませんか」 「……いまさら?」  恵莉は笑いながら写真をダッシュボードにしまうと、広げていた海を手に取って目に当てた。海の色がじわじわと濃くなってゆく。  淳一がふうと息を吐いて顔を上げると、赤いランプを載せたレッカー車がバックミラーに映って見えた。 「あ、JAF様がやって来た」
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