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「――夕立と一緒に、蛙や魚、石、大きな氷。それに、緑色のネバネバの塊なんかが降ることは、時々あるんです。  原因はろうと雲や竜巻。それが海水や地上にあるものを掃除機みたいに吸い上げて、少し離れた場所に落とすんです。  ところが、それじゃ説明のつかないことも。その国じゃ栽培されてない果物が降ったり、イギリスの新聞の切れ端がフィリピンに降ってきたり。  で、極め付き……」  恋する相手と、彼の車で二人きり。  その彼が、運転席で楽しそうに自分の得意分野の話をしている。「これ、誰にも言ったことないんですけど」という特別な感じの前置きとともに。  助手席の関口恵莉は思う。  ――とけちゃいそう。  エアコンも効かない。ひどい夕立で窓も開けられない。湿度も気温もねっとりと高い。さっき車に乗る前に買ったペットボトルの炭酸水はただのぬるま湯だ。今ふたりが乗っている車は、路肩に停まったまま1mmたりとも動かない。  そもそも隣の男が、自分のことを好きかどうかが、わからない。  ――とけそう。……不快指数、MAXで。
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