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夢をみていたようだ。体がこちらの世界の感覚を取り戻すにつれて、夢で味わった熱さは引いていく。代わりに全身が冷や汗をまとい、気味の悪い寒気がした。
隣でイサカが笑っている。
「お目覚めかい、上等兵どの。縁起でもなく走馬灯でも見てたんじゃあるまいな」
上等兵。俺の階級のはずなのになんだかその響きは、冗談にしか聞こえなかった。
しかし、ふと手に触れたア型のひんやりした感覚に、俺は嫌でも認めざるを得なかった。
俺は兵士で、戦場の真っただ中にいることを。
もう三日になるだろうか。
先日の輸送作戦以来、イサカの奴を見ていない。
以前なら兵舎をうろついていれば背後から突如かけられた奴の声も聞こえないまま、俺は朝からこうして食堂舎の周りをうろついている。いつの間にか日は暮れて、心の方は自然と明日の作戦を意識し始める。
寝室舎はいつも兵士でぎゅう詰めだ。戦死者が出て、布団に空きが出たとしてもすぐに新顔が投入される。
三つ先にあったはずの俺の相棒の寝床では、十六、七くらいの新兵が、見開いた眼で天井を見つめている。眠れないのだろうが、この晩は俺も同じだった。
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