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俺は魔王様を抱いて離れなかったようだ。いかに憎い魔王相手でも、すがる者を引き剥がして遺体を焼くなんて、人間には到底難しい。主人公なんて特に、善人だから。少なくとも、ゲーム上は。
俺は魔王様の亡骸とともに塔に幽閉された。窓や扉は魔法で封鎖されている。完全な牢獄だった。
でも、それでもよかった。
俺は自分の指先を噛んで傷つけ、彼の口に入れた。俺が魔王様の生命をもらって生きているのなら、同じことができるんじゃないかと思ったんだ。俺の血で、魔王様をよみがえらせることができるんじゃないかって。
魔王様は目を覚まさなかった。でも、腐ることもなかった。この事実でもいくらか慰めにはなる。俺は元人間のできそこないだけれど、いつかは願いが叶うかもしれない。
俺の血。魔王様の生命。
時が過ぎる。何年も、何十年も。
いつか、何百年も経って、主人公たちもみんな死んでしまって、牢獄の魔法も薄れてきたら。
魔王様が、目を覚ましたら。
ふたりでここを出よう。そしてどこか、前みたいに打ち捨てられた城を見つけて、またふたりで暮らすんだ。
黒豹にも、どこかで会えるといいな。
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