31人が本棚に入れています
本棚に追加
2021年8月1日。
俺は死んだらしい。
もしくは、現実世界の現代日本を抜け出して、どこか見知らぬ場所へ来てしまったようだ。
その世界で俺が最初に感じたものは、恐怖だった。
「うぅ……っ」
俺は地面に押さえつけられている。
身体中が痛い。土の匂い、獣の匂い、それからたぶん血の匂いと、精液の匂い。
俺は犯されていた。周りにいるのは、どこか見覚えのあるモンスターたち。「魔物」だ。そいつらは俺を捕まえて、引き裂き、かわるがわる突っ込んできた。
なんでそうなったのか、全然わからない。俺は大学生だった。だった、はず。オンライン授業を終えて、ゲームをして、晩飯を買おうと外に出て……そこから先の記憶がない。気がついたらこうなっていた。森にいて、魔物に囲まれて、逃げる間もなく襲われた。
嫌だ、やめて、痛い、助けて。そういう台詞は、最初の方で全部使い尽くした。
身体が千切れそうだ。というか、たぶん、右腕は千切れていると思う。はっきり見るのが嫌だからなるべく目を背けているんだけど、あっち、向こうの木の根元に落ちているの、あれはたぶん俺の腕……。
俺はこのまま死ぬんだ。元の世界でも死んだのかもしれないのに、ここでもう一度死ぬなんて。
でも、これが終わるならもう、なんでもいい。こんなの、こんな、ああ、無理、気が狂いそう。
何人めかわからない魔物が唸りながら俺の中に出した。抜かれて放される一瞬だけ、俺は自由になる。もっとも、自由になったところで一ミリも動けないのだけれど。
別の魔物が、俺に向かってこようとしていた。
俺は気絶したかった。そうしたら何も感じなくて済む。頬を汚す涙も、吐き気も、感じなくて済む。
が、瞼を閉じようとした時、すべてが変わった。
魔物たちが、青く燃え上がった。炎の向こうから、誰か、背の高い影が進み出る。
彼は俺を見下ろしていた。その青白い肌、長い黒髪、妖しく光る深紅の瞳、恐ろしく整った顔立ち。
俺は彼を知っていた。
そんなはずはない。そんなはずはないけれど――。
彼は、俺がプレイしたスマホゲーム『ソング・オブ・オルフェウス』のラスボス、「魔王」だった。
最初のコメントを投稿しよう!