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魔王が目の前に現れたからって、何ができるわけもない。もはや恐怖も飽和状態で、俺にとってはさっきの奴らも魔王もみんな同じだった。
頭の一部が変に冷静だった。確か魔王って、厨二病みたいなふたつ名がついていたっけ……ええと、「暗闇の申し子」とか、「冷酷なる支配者」とか……。
魔王は俺を抱き上げた。お姫様を抱くみたいに。怖いくらいにきれいな顔が近づいてくる。
唇が重なった。そこはさっき、魔物の巨根をねじこまれたところ。魔王も俺を犯すんだろうか。
もう、どうでもいい。
そう思う俺の口に、何かが入ってきた。とろりとしたもの。さびた鉄のような味。
そこで俺はようやく気を失った。
どろどろした夢を見た。傷つき、疲れ果てた身体は重く、脳は混沌として、なんの感情も湧かなかった。
目が覚めた時、俺はベッドに横たわっていた。
魔王はいない。
俺は裸。
右腕……ある。よかった。千切れていなかったみたいだ。左腕も、足もたぶんある。
ここは寝室のようだ。天蓋つきのベッドと、机、椅子、ちょっとした棚なんかがあるけれど、使われた形跡はない。どことなくもの悲しい部屋だった。
服もなさそうだ。
喉が渇いた。耐えがたいくらい。何か飲みたい。
俺はベッドを下りた。手足が重い。久しぶりに立ったみたいだ。おそるおそるドアに近づき、外の気配を窺うと――。
なんの音もしない。
裸で外に出る勇気はない。だって、もしも外に魔物がいたら、また……。
考えたくない。
俺はまたベッドに戻った。身体が震えていた。
喉が渇いた。
頭がくらくらする。俺は元通りに横たわり、瞼を閉じた。
喉が渇いた。
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