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魔王様は風に乗ってやってくる。
俺はよくテラスに出る。外にいれば、魔王様が来るのが見えるんじゃないかと思って。
ここでの暮らしは魔王様と黒豹しかいないし、黒豹は話しかけても全く反応しない。そうプログラムされているかのように、毎日同じことを繰り返す。
唯一の変化が魔王様の来訪で、俺が心待ちにするのも無理はないと思う。
ここはかつて人間の城だったようだ。いまは魔王様の持ちもので、隠されている。周りは森。人里らしきものは、ひとつも見当たらない。魔物の姿もない。
きれいな世界だ。俺が惹かれたゲームのグラフィックそのもの。遠くの稜線に沈む夕陽を眺めていると、わけもなく泣きそうになる。
帰りたい、という気持ちは、だんだん薄れていった。帰れる兆しがない。儚い希望を持ち続けるよりは、いまの状況を受け入れる方がまし。そう考えていたけれど、実際には単純に感情が麻痺していたんだろう。
魔王様がやってくると、俺は嬉しかった。
「魔王様!」
その後にいらっしゃいませと言うべきか、それともおかえりなさいというべきか、俺には決めかねた。魔王様が住み、魔物たちを治めている居城は、別にある。ここはいわば、別宅みたいなものだ。そう考えると俺は、愛人というか、愛玩動物みたいなものだろう。
俺が笑うと、魔王様はちょっと変な顔をする。うっかり笑いそうになって、いや笑ってはいけないと慌ててこらえた、みたいな顔だ。
魔王様、案外表情豊か。
俺は魔王様とお茶を飲む。彼は時折俺をじっと見ている。俺は気づかないふりをして、カップの中のお茶を見ている。
ここには何もないけれど、退屈じゃない。
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