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ある時、俺はまた渇きを覚えて体調を崩していた。
魔王様がやってきて、弱っている俺を見た。いつもなら指先から血をくれるのに、この日は口を開けた。
指が舌をなぞると、そこが細く切れる。
彼の冷たい唇を、自分の同じものの上に感じた。最初の時を思い出した。あの時俺はひどい目に遭って、ほぼ死んでいた。怖かった。
いまは、怖くない。
魔王様の舌が口の中に入ってきた。俺の舌を優しく突つき、誘う。俺は彼の舌を舐めて、彼の血を味わった。俺の生命を繋ぐ唯一のもの。俺を救ってくれる、ただひとりのひと。
口づけはすぐには終わらなかった。魔王様は何度も何度も舌を擦りつけ、俺も夢中で舐めた。彼の血が欲しいというばかりじゃなく、彼にキスしたかった。
俺は魔王様の手を握った。
魔王様はしばしじっとしていた。何をしようかと迷っているみたいに。彼がついに俺の上に身を屈めた時、俺は歓喜に震えた。
その日、魔王様は初めて俺を抱いた。この世界に来た最初の日、襲われた時のことは、もちろん胸にはあった。それでも魔王様が触れ、深紅の瞳で見つめられると、身体の芯が熱く溶けるみたいで、心地よかった。彼に触れられるのは嫌じゃなかった。裸にされるのも、舐められたり、撫でられたりするのも。腿を開かれ、中に入ってこられたのも、痛くなかったし怖くもなかった。
魔王様は注意深く俺を貫いた。最新の注意を払って、俺が怯えないようにと。俺は喘ぎながら彼にしがみついた。
――中に、中に、出して。
彼の血は俺の生命。だったら、彼の精液も同じなんじゃないだろうか。俺はそんなばかなことを考えて、魔王様にねだった。
あなたの熱をください。
冷たい魔王様の身体が、そこだけ熱かった。内側から俺の身体に浸透していくみたい。彼の迸りを奥に感じて、俺は清められた。あの時の恐怖も、屈辱も、ゆるやかに溶けだしていった。
行為の最中でさえ、魔王様はほとんど声を出さない。俺は自分の潰れたダミ声が嫌で、やっぱり声を出さない。ふたりの吐息だけが、切なく響いている。
俺が眠ってしまうと、魔王様は出ていった。翌朝になって、俺は枕元に黒い百合が置かれていることに気づいた。
魔王様は、厨二病だ。
でも、これはたぶん、魔王様なりの俺への愛情なんだろう。ろくに会話もしないし、たまにしか会えない。愛とか恋とかいう次元じゃない、ご主人様と愛玩動物。
それでも、いい。
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